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テーマ:ハードボイルド再び(47)
カテゴリ:ハードボイルド週間
「並一人前と瓶ビール」
終電40分前に、わたしは駅近くのバラックのような 寿司屋で遅い晩飯を摂った。 「今日も遅いんだね」 「あぁ、チョンガーの俺にはここは便利でね」 「京急の立体工事が始まっちゃうと立ち退きなんでさぁ」 俯き加減に寿司を握りながらオヤジはわたしに呟いた。 駅舎の一部は解体工事に入っている。 176cmのわたしでも、頭が天井に当たりそうな 低い屋根、黄ばんだ蛍光灯が2つだけの暗いカウンター 当然、テーブル席を置くほど広くない。 カウンターも5席だけである。 その上その1つには、いつもクシャクシャになった新聞が 無造作に置いてある。 アルマイトのヤニのついた曲がった灰皿が、鈍い光を放つ。 2トン車が通るだけでも、震え出す入口。 AMラジオから寄席の年老いた笑いが聞こえる。 場末と言わずに、どう表現すればいいのだろう。 似たような建物を見た記憶があった。 炭鉱跡のホルモン屋である。 猥雑な黄色の看板がこことの相違点であるが、場末は変わりない。 「お待ちどう」 地元の寿司屋の1/3しか乗ってないネタ。 新鮮さなど売りにはしてない。 ただ腹を壊さないのは、オヤジの見立てなのだろう。 ビールを半分飲んだ頃に、萎びた寿司が現れる。 大きく立派な会社と見られてはいる。 そう見せるためにも、わたしはなけなしの給料でブランド スーツに身を固めている。 しかし極度の安月給である。 残業が立て込むと、こんな小汚い寿司屋でも自分に戻ることが 出来るささやかな時間となる。 「お愛想」 「1050円ね」 わたしは狭い歩道に足を取られながら駅に向かった。 ヨレヨレの人生であった。 それから18年 久しぶりにその街に立ってみた。 街は変わろうともがいていた。 どこにでもある居酒屋チェーンが軒を連ね、パチンコ屋に併設 されたサウナのネオン、漫画喫茶など目に付いた。 しかしあの小汚い寿司屋の残骸はどこにもないのだが、虚ろな 空気は変わってない。 灰色の20後半だった。 二度と来ることはないだろう。 過ぎ去った日々の確認作業だったようだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.09.25 05:03:56
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