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テーマ:試写会で観た映画の感想(680)
カテゴリ:洋画(ま行)
原題: MILK 監督 : ガス・ヴァン・サント 出演 : ショーン・ペン 、 エミール・ハーシュ 、 ジョシュ・ブローリン 、 ジェームズ・フランコ 、 ディエゴ・ルナ 試写会場 : 九段会館 公式サイトはこちら。 <Story> 1972年のニューヨーク。 金融や保険業界で働いていたミルク(ショーン・ペン)は、20歳年下のスコット(ジェームズ・フランコ)と出会い、恋に落ちる。 二人は新天地を求めてサンフランシスコに移り住み、小さなカメラ店を開店。 そこはたちまち同性愛者やヒッピーたちのよりどころとなり、 ミルクは彼らを快く思わない保守派に対抗した新しい商工会を結成する事になる。 社交的でユーモアにあふれたミルクは、近隣住民の抱える問題に、政治的により関わりを深めていく。 [ 2009年4月18日公開 ] ミルク - goo 映画 <感想> 楽しみに楽しみにしていたこの作品。アカデミー主演男優賞、脚本賞の2冠に輝いたということもあってか、九段にしては超満員。3階席まで使ってましたね。 アメリカで、同性愛者としては初めて公職に就いた実在の人物、ハーヴェイ・ミルク(1930-1978)の最後の8年間を描いた作品。 監督のガス・ヴァン・サントもゲイをカミングアウトしているそうです。 舞台となっているのが1970~1978年。今からわずか30年あまり前の出来事なのに、現在私たちが目にしているいろいろなニュースとは隔世の感がある。 こんなにホモセクシュアルに対してアメリカで保守的な時代があったということを思い起こさせてしまう。 黒人の公民権運動、ウーマン・リブしかり、何につけてもパイオニアは、それまでの概念を打ち破るために時に筆舌に尽くし難い想いを味わうのだろう。 それでもミルクが支持を得たのは、彼がただ単に、自分たちのコミュニティだけの問題として片付けなかったからではないだろうか。
カムアウトするということは勇気がいることである。 何がために知らせるのか。 それはもはや、自分独りで黙っていることが耐えられなくなってしまって、この想いを誰かと共有したい、そういう信念に突き動かされるからなのかなと。 勇気を振り絞って告白してみて何か役に立てることはないかと動きだした時、立場こそ違えど、マイノリティが抱える要望だとか現状だとか、そういったものに共通事項があることにミルクは気がついたのではないだろうか。 マイノリティである自分が、代表する立場になることで、他の人と共有している要望を改善したりすることができる。あらゆる差別、排除によって不利益を被っていると感じている人たちの苦しみを少しでも軽くすることができたら。 そんな想いがあったからこそ彼は支持を得ることができたのだと感じる。 それでも彼に対しての風当たりはキツい。だけど、異を唱える人々に対しても、ミルクは一貫して相手を見下さない態度で接している。時にユーモアを交え同調したり。 だが、プロポジション6のように、自由に生きる権利が侵害される危機に立たされた時は徹底的に戦う。 そんな彼を支持する人たち。 中でもエミール・ハーシュの化け方(!)には驚かされた。 『イントゥ・ザ・ワイルド』で見せてくれた、決死の演技とはまた違った姿がいい。 肩の力を抜いて自由に生きたい。 今では、エイズ・メモリアル・キルトを主宰しているクリーヴ・ジョーンズ氏を演じた。 そして最初の恋人のスコット・スミスを演じたジェームズ・フランコ。 ミルクが次第に社会的に影響力を持って行くにつれて、手の届かないところに行ってしまいそうな不安をきっと彼は感じていたんだと思う。 でも最後にミルクが拠り所にしたのもまたスコットだった。 離れていてもいつも心はそばにいた。 そうすることで心のバランスを取っていた。 そんな切なさと、ミルクをどこまでも見守っているという確固たる信念を持った男性。 心が柔らかくて素敵だったな。 本当に彼を取り巻く人たちがみんな素敵なんですね。 スコットの次の恋人のジャック、女性ブレーンのアン、カメラマンのダニー、その他大勢。 彼らのサポートがみんなあったかい。 これらキャストは実際の人物に似せている。そっくりでなくとも雰囲気が似ている。そういう細かい点で、この映画への敬愛を表しているところが大好き。
そしてミルクの不倶戴天の敵であるダン・ホワイト。 ジョシュ・ブローリンが、この難しい役どころを演じていました。 ダンもきっと共感してくれる人が欲しかったんだと思う。だけど政治的にも成功したいし家庭も潤わせたい。 ミルクについて、「問題を抱えているから支持される」という妄想だけを膨らませていってしまっているけど、ここに根本的にダンの勘違いがあるように感じた。 何故ならミルクの「問題」は、生命を懸けた闘い。 空気がないと息ができないように、人を自由に愛して生きる権利がなくなると生きていけなくなるくらいの感情を持つ人もいるのだから。 今、ゲイと聞いてもそんなに珍しいと感じることは正直あまりない。 例えばマスコミに登場する人たちが、自分はホモセクシュアルだとカミングアウトして、番組を持っていたり執筆をしてみたりすることはそうそう特別なことではなくなってきているから。 特に平成になってから、マイノリティの存在に関して、私たちはかなりいろいろな情報をもっているのかもしれない。 今まで声を上げたくても上げられなかった人たちの意見が、マスコミ、ネットを通じて簡単に伺える時代になりました。 だけど、実際に今の日本で、「自分はホモセクシュアルです」とカミングアウトしたとしたら・・・。 実際に、身の周りでそんな人がいたとしたら。 果たしてその人にとって今の日本は、生きやすい社会であると言えるだろうか。 アメリカではもはやマイノリティを無視することはできなくなっているけれど、日本でこの状況を作り出すことはまだまだ難しいと思う。同性愛をカムアウトしただけでかなり社会的には生き辛くなるであろうことは容易に想像できるから。 アメリカと日本では、まだまだマイノリティに対しての目線には差があるけれど、 それでも、いろいろな側面で苦しんでいる人がこの映画を見たら、きっと勇気づけられるんじゃないかと思う。 大きな一歩を踏み出していった彼らに対して心から敬意を表したい。 私も「女性」という大きなマイノリティに属する1人として、動かなければ何も変わらない、何かを変えたかったらまず相手を理解しないといけないということを考えさせられた。
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