原題: LE CONCERT
監督 : ラデュ・ミヘイレアニュ
出演 : アレクセイ・グシュコブ 、 メラニー・ロラン 、 フランソワ・ベルレアン
鑑賞劇場 : TOHOシネマズ六本木ヒルズ
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<Story>
かつてロシア・ボリショイ交響楽団で天才指揮者と呼ばれたアンドレ(アレクセイ・グシュコブ)は、今やさえない劇場清掃員。
ある日、劇場に届いた「出演できなくなった楽団の代わりのオーケストラを探している」というFAXを目にした彼は、とんでもないことを思いつく。
それは彼と同じく、いまや落ちぶれてしまった、かつてのオーケストラ仲間を集め、ボリショイの代表としてこのコンサートに出場するというものだった…!(作品資料より)
[ 2010年4月17日公開 ]
オーケストラ! - goo 映画
<感想>
この日2本目は、昨年の
『イングロリアス・バスターズ』でもクールな演技をしていたメラニー・ロランの新作。 来月公開ということでぼちぼちレビューも散見されます。
一足お先にフランス映画祭にかかるので押さえました。
1970~80年代のブレジネフ政権下のソ連とフランスが舞台。 ということでこの時代背景を軽く思い出しておいた方が本作は頭の中でスムーズに展開する。
「ソ連知識階級のユダヤ人弾圧」が本作の背景にあります。 第二次世界大戦後かなりの年月が経っていたにも関わらず行われていた訳で、歴史の暗部と言えよう。
そんな訳で映画はどちらかというと重ためな空気で始まる。
過去30年間、中断されてしまったオーケストラの記憶を引きずって生きてきた男。 そのアンドレが思いついたアイデア。 本当にそんなことは可能なのか? と思わせる展開なのですが、思うにこの映画自体が壮大な1つのファンタジーなのだろう。 リアルだったら絶対に実現しないから。
予告で流れているので、もうそれだけでこの映画の展開は予想されがちだが、
音楽面においては予測している以上のドラマを感じさせてくれた。 すなわち、30年ぶりの寄せ集め楽団が最初に奏でる音と、クライマックスのチャイコフスキーの音との違いなんかもそう。 そしてソリストのアンヌ=マリー・ジャケが奏でる音色が何とも切なく悲しげで、しかも心を震わせてくる。
この最後の曲と同時に展開される歴史的背景と、人物たちに隠された悲しい過去。
時は流れ、それらを打ち消すがごとく集まった彼らの想いというものに観客は圧倒されていく。
ラデュ監督の言葉から引用させていただくと、
「歴史や政治がつく嘘はは時に人間の運命を破壊する。
そしてそのような不可抗力によって破壊された人間たちもまた、小さな嘘をつくことによって、
自分たちが失ってしまった幸福を取り戻していく。」
ということになるのだろうか。
望んでも叶わない、またある時は生まれながらにして持っていないものが人間にはどうしてもある。
それがもしも他者の手によって歪められたものであったとしたら。
もはや完全に修復することは不可能かもしれない。 けれどせめて、そこに自分が取り戻せるものがあるとするのなら、それに向かってひたすら進んでいく。 そのためにつく小さな嘘は願わくば許されてほしい。
小さな嘘を発展させて行く過程で出てくる無茶ぶりもどこか可笑しく、ほほえましく許せるものだし、
その面白さの裏側で静かに露見する残酷さも観客はしっかりと受け止めることができる。
そして、メラニー・ロランはまさにそれを体現していく象徴として、美しく力強く存在している。 これも間違いなく彼女の代表作となるだろう。
上映後のトークショーのお話をします。
登壇者はラデュ・ミヘイレアニュ監督、主演のアレクセイ・グシュコブ氏、そしてゲストにシャンソン歌手のクミコさん。
いきなりカメラを持って現れた監督は、会場をパチパチ撮り始め、そして司会やゲストさんや通訳さんともツーショットを撮る茶目っ気たっぷり。
監督:この映画は、人間の尊厳を取り戻すという意図を持って作りました。
悲劇と困難を経験した人は幸福を探していくように思います。
1人の人間の中にも必ず栄光があり、それを引き出していくのが我々の仕事のように感じます。
アレクセイ:(レストランのシーンで、上着がブカブカであったという要素に関しての質問に対して)ロシアのありのままの姿を観ていただくということです。 こういったこと1つ取っても、本作ではロシアは大きな愛を持って描かれています。
人間の喜びや悲しみは国を超えたものであると思っています。
監督:チャイコフスキーを選んだ理由ですが、まず「ロシアらしい」ということ。
そしてクレッシェンドしていく楽曲であるということです。
希望を持って立ち向かえる曲がここには必要でした。
そしてそれとは裏腹に、ソロのアンヌ=マリー・ジャケが奏でる、引き裂かれるような悲しみの2つの要素が対話している曲はと考えるともうこれしかなかった。
リズム感(一体感という意味?)としても、ロックコンサートのように盛り上がるようにしていきたかった。
監督はルーマニア出身。
80年に亡命、ユダヤ人ジャーナリストの息子としてイスラエルの保護下に入りのちに渡仏という経歴の持ち主。
この映画の根底には、こうした彼の人生観が色濃く表れている。
彼が今まで作った映画の中には必ず「なりすまし」という要素が入っています。
「なりすます」ことによって、本来手にするはずであった幸福を取り戻す。 それは恐らく、彼の生き方そのものでしょう。
実際お目にかかった時のひょうきんさとは裏腹の人生を知るにつけ、そう感じます。
今後も彼の作品が楽しみになりました。
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今日の評価 : ★★★★★ 5/5点