暗く寂しい首都高速
涼しげな風に髪が揺れる
シュークリームの甘い香りがほのかに漂い
はるか前方には かすかな灯りが見える
頭は重く 視界かすむ
どうやら今夜は休息が必要だ
礼拝の鐘が鳴り
戸口に女が現れた
僕はひそかに問いかける
ここは天国? それとも地獄?
すると 女はローソクに灯を灯し
僕を部屋へと案内した
廊下の向こうから こう囁く声が聞こえる
ようこそホテル兜町へ
ここはステキなところ
お客様もいい人たちばかり
ホテル兜町は
数多くの銘柄をご用意して
あなたのお越しをいつでもお待ちしています
ティファニーの宝石のように繊細で
高級車のように優雅なその曲線美
美しいボーイたちはみな
彼女(銘柄)たちに心を奪われている
ザラバでは香しい汗を流して
ダンスを踊っている人々
思い出を心に刻もうとする者
すべてを忘れるために踊る者
そこで僕は支配人に告げた
「ワインを持ってきてくれないか」
すると彼は「2005年以来そのようなスピリットは一切ございません」
それでも人々が深い眠りについた真夜中でさえ
ダウナスのチャートとともに 声が聞こえてくる
ようこそホテル兜町へ
ここはステキなところ
お客様もいい人たちばかり
どなたもホテルでの人生を楽しんでいらっしゃいます
口実の許すかぎり せいぜいお楽しみください
鏡を張りめぐらせた天井
グラスにはピンクのシャンペン
誰もが自分の意思で囚われの身となった者ばかり
やがて 大広間では祝宴の準備がととのった
人々は 鋭いナイフを突き立てるが
誰ひとり内なる獣を殺せない
気がつくと僕は出口を求めて走りまわっていた
もとの場所に戻る通路を
なんとかして見つけなければ・・・
すると 夜警がいった
「落ち着いて自分の運命を受け入れるのです
いつでもチェック・アウトできますが、
ここを立ち去ることは永久にできません」
2005年から時が止まってしまった気がする。
この2年、
数多くの人と出会い、数多くのところへ行き、数多くの本を読み、数多くのものを買い、数多くのものを食べ、数多くのことを考え、数多くのことをしてきたが、
どれもこれも二義的な線に後退したかのようだった。
今だからこういえるのだが、その当時はまたそれらすべてを明確に気づいてはいなかった。
わたしはもちろん、たえず不安に包まれて暮らし、ごく些細な額で勝負しながら、何かを期待し、当てにして、ほぼ毎日朝から晩までパソコンのそばにいて、勝負を観察し、夢にまで勝負を見ているのだが、それにもかかわらず、まるで泥沼にはまり込んだみたいに、無感覚になったような気がする。
時の空白は圧勝でしか埋められないのか。
はたしてわたしは本当に賭博狂なのだろうか、はたして本当に・・・