あはれ 秋風よ 情あらば伝えてよ― 男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食ひて 思いにふける と。
*****さんま、さんま。そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせてさんまを食ふはその男のふる里のならひなり。そのならひをあやしみなつかしみて女はいくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。あはれ、人に捨てられんとする人妻と妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、愛うすき父を持ちし女の児は小さき箸をあやつりなやみつつ父ならぬ男にさんまの腸をくれむと言ふにあらずや。あはれ秋風よ汝こそは見つらめ世のつねならぬかの団欒を。いかに秋風よいとせめて証せよ かの一ときの団欒夢に非ずと。あはれ秋風よ情あらば伝えてよ、夫を失はざりし妻と父を失はざりし幼児とに伝えてよ― 男ありて今日の夕餉に ひとりさんまを食ひて涙をながす、と。さんま、さんま、さんま苦いか塩っぱいか。そが上に熱き涙をしたたらせてさんまを食ふはいづこの里のならひぞや。あわれげにこそは問はまほしくをかし。 佐藤春夫*****この詩は佐藤春夫が谷崎潤一郎と出会い谷崎の女癖の悪さの中で谷崎の妻千代を同情からやがて愛し、千代をめぐっての確執によって絶交する。その間に自らの妻に逃げられた佐藤の千代に向けた思慕の歌だそうな^^7年後、谷崎と和解し、佐藤は千代と結ばれている^^秋刀魚のお刺身^^苦くも塩辛くもないニンニク醤油か、生姜醤油で^^いただきま~す^^