カテゴリ:小説「ジパング」
望遠鏡を覗いた角松は困惑した。先行しているはずの僚艦「はるか」の艦影が消えたからだ。どういうことだ、それほどまでに視界が悪化してきているというのか。次の瞬間、角松の目の前は真っ白い光に包まれた。
ガガ―――――ッン。 強い衝撃が艦と乗組員らを襲った。右舷に待機していた小栗らは吹き飛ばされ壁に激突した。 「痛っ。な、なんだ今のは。落雷か?」 小栗は立ち上がりながら辺りの状況をすぐさま確認する。とくに火の手は上がっていないし、右舷の船員には大きな被害も見られない。 「ダメージ・コントロール。艦内各部の損傷を報告せよっ」 艦橋で角松が声を荒げる。 「電気、油圧、電算機能正常。システム・オール・グリーン。艦内各部、稼動しています」 だが、直後にレーダーを見たCIC付きの電測員は絶叫しかけた。 「ば、馬鹿な――」 数十秒前までレーダー上に映っていた、三隻の僚艦の位置座標を表す光点が消失していた。 「CICより艦橋へーっ。OPS―28(対水上レーダー)、反射波をとらえられません。僚艦をロスト(失探)」 「消えた?レーダーが利かないってことがあるか。出力最大で探せっ」 角松の心中に黒い霧がたちこめていく。 落ち着け。俺が冷静で居なければ部下達の不安はさらに広まるのだ。落ち着け、落ち着くのだ。まず優先すべきは僚艦との交信域の確保。そうだ、現状を把握せねばならない。だが、事態は角松のこの思案すらも及ばぬ域に達している事を、こののち彼は知る事となる。 CICの菊地はこの様な状況下でも焦る事無く、部下に指示を出していた。彼が出した指示は二つ。一つはレーダー故障の可能性の確認と、故障が見られた場合におけるその箇所の即急な修復。もう一つは、角松の心を知ってか知らずしてか、先行艦との交信域の確保であった。 しかし、 「先行艦「はるか」との交信不能。「ゆきなみ」「あまぎ」共に返信ありません。全交信可能域、完全に沈黙っ」 という通信員の悲壮な報告が響く。菊地は軽く唇を噛んだ。だが部下は次の指示を待っている。諦観は今できる事を全てしてからでも遅くは無い。即座に声を振り絞る。 「五分前まで4キロ先の「はるか」を確認している。フリーサット(衛星通信)で試してみろ」 「フリーサット軌道上に確認できません」 「衛星追尾アンテナ、チェック」 「だめです。エラー(故障)ではありません。全艦から応答ありません」 艦橋にCICから悲況の報告が入る。にわかに室内がざわめいた。乗組員らの表情に暗い影が射す。それは角松とて例外ではなかった。 「僚艦が全て消えた―――?何が起きた?何が起こっているんだーっ」 窓の外に向かい角松は吠えた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.08.09 22:07:32
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