小説「ジパング」第3章-7
「ぜ、全周にアンノン(不明艦)多数。概算40を超過っ。我々は、我々は大艦隊のド真ん中に居ますっ」 その報告を受けた艦橋には、もう言葉を発する者は居なかった。誰でもいい、この状況を納得できるように説明してくれ。誰もがそう落胆しかけていた時、艦長の梅津だけは思考を止めてはいなかった。「真珠湾の米海軍が早々と出張って来たのかもしれん。確認しろ」 はっとなって、角松は無線を拾い指示を出した。「電測員、米軍バンド(周波数)にて確認せよ」 すぐにCICで確認が行われたが応信無しであった。「応信ありません。IFF(識別装置)反応無し」「艦影接近、本艦正面。距離500。戦艦クラスです」 距離500か、艦橋からも確認できるな。そう思うと梅津は望遠鏡を手に取り覗き込んだ。そして、一連の騒動の中でも動揺を抑えていた梅津が初めて狼狽の表情を浮かべた。 こんな事が―――。 その梅津の変化を角松だけは見逃さなかった。梅津の視線の先を追う。そしてゆっくりとその影の大きさを増していく戦艦が目に映り始め、やがてその細部をも捉えた。だが、それはにわかに受け入れられるものでは無かった。 右舷の小栗ら観測員にも接近してくる艦の姿が見えていた。「見ろ、ニュージャージーかアイオワか?」「馬鹿言え。アイオワ級は全て退役している。太平洋にはいねーよ」「じゃあ、いったい―――」 隊員たちは口々にその不明艦を当てようと艦の名を出してはそれは違う、あれはどうだと言い合っていた。小栗はそれを片耳で聞きながら双眼鏡に目を凝らす。徐々に艦が近づくにつれ、小栗は心の蔵が激しく脈打つのを感じていた。