四国一周 自転車の旅
僕は旅が好きだ。30歳をすぎた今も、休みになるとふらりと1人でアジアに出掛ける。この楽しさに病みつきになってしまった原点は、大学1年生の冬、友人と自転車で四国を1周したことだ。神戸港から自転車を積んでフェリーに乗り、高松港に上陸。時計回りに海岸づたいに走った。こんぴら参りをし、大歩危小歩危を見て吉野川を下り、室戸岬をぐるり回って桂浜へ。そこから清流の四万十川を南下して足摺岬へ行き、再び北上。道後温泉の湯につかった後、JRで瀬戸大橋を渡った。20日間計1200キロほどの旅だった。ほとんどテントを張って寝泊まりした。吉野川の美しいススキに放尿したり、ウミガメのメッカで野糞をしたり。植わっていた民家の柿を盗んで食べたこともあった。土方のおじさん宅に泊めてもらったときは、飲み過ぎた友人がゲロを吐いた。夕食に立ち寄った小さなお好み焼き屋では、翌朝用のお好み焼きまで焼いてくれた。なけなしのカネで買ったパンを自転車の後部にくくりつけておいたら、カラスに食われたこともある。旅を終え、関西に戻ったあとも、お尻についたサドルの跡がずっと消えなかった。どれもみんないい思い出である。きのう、15年ぶりに四国へ入った。今度は家族でリッチに自家用車である。15年前の旅の1日目は到着したフェリーターミナルの脇で寝袋にくるまった。現地を訪ねてみたが思い出せない。金比羅山へ参る785段の階段はヘトヘトになったからよく覚えていた。今回のこんぴら参りは、5歳の長男がしんどそうだったので、しりとりをして気を紛らわせながら登り下りした。金比羅山のふもとで1泊したのち、きょう国道32号線を南下して、観光地の大歩危小歩危へ。秘境らしく雪が積もっていていい雰囲気を醸し出していた。15年前によくこんなところまで自転車で走ったな、と我ながら感心してしまった。当時はカネがなかって断念した遊覧船は、今回も雨天で乗れずじまい。ともあれ、あの日々から15歳、齢を重ねたことをひしひしと実感した。当時、一緒に旅をした友人が今春、結婚する。婚約者はちょっとした病いを患ったが、結婚に迷いはなかったらしい。聞いたとき、あいつらしいな、と思った。一緒に四国を回ったときはどのルートを通るかを巡ってよく言い争った。2人だけのテントのなかで一言も会話がなかった夜もあった。それでも翌朝には僕は素直に「ごめん」と言えた。友人はそう言わせる男なのだ。人にはそれぞれかけがえのない思い出がいくつかある。15年ぶりの再訪は、僕にとって、あの四国一周がいまの自分を支えている、とあらためて気づかせてくれた旅になった。 【DEERS百貨店】 本・雑誌 ◇ パソコン・家電・AV ◇ 生活・インテリア ◇ スポーツ・アウトドア ◇ ファッション・ブランド ◇ ダイエット・健康 ◇ トラベル ◇ 趣味・ペット ◇ フード・ドリンク・ワイン ◇ 楽天フリマから現金5万円プレゼント ◇ 出品初心者は30日間無料! 蓮4044