|
カテゴリ:医学
4月から特定健診(いわゆるメタボ健診)が始まりました。私も勤務先でメタボ健診の判定にかかわっています。
きちんと計数していないのでざっとした印象ですが、 1)なんらかの項目で異常値となり要指導判定とされる人の割合が9割 2)なんらかの項目で医療機関の受診勧奨となる人が約5割 もいます。 1)に該当する人が必ずしも保健指導の対象(腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上 または BMI25以上)に該当するわけではありませんし、受診勧奨されたからといってすぐに薬物療法の対象となるわけではありません。しかし、異常値としてひっかかれば本人も気にして「薬を飲まなくて大丈夫ですか?」と聞いてくるのは目に見えています。現時点で勤務先のメタボ健診受診者の多くが高齢者であったことを差し引いて考えても基準が厳しすぎると考えざるを得ません。 そもそも、今回のメタボ健診の基準値の設定にあたって多くの医療者からも疑問の声があがっていますし、保健指導にかかる費用対効果から考えても疑問が沸いてきます。 最近の自治医大のスタディでは今回の診断基準でメタボ該当者でも死亡リスクに差がないことが示されています。福岡県久山町での研究でもメタボ該当者の心血管病発症リスクはせいぜい1.4倍に増加するのにすぎないのに、厚生省が示すメタボ対策の根拠ではNakamuraらの文献を引用して「肥満・高脂血症・高血圧・高血糖のうちリスクが2つある人は、全くない人に比べて、心血管病の発症リスクが約6倍、3~4つ当てはまる人は約36倍」と示されています。これは自治医大スタディと久山町スタディの結果からするとリスクの極端な過大評価ではないかと思われます。 以下、星 旦二先生のPowerPointファイルからの引用ですが 日本人は高度肥満の人が少ない 肥満度を示すBMI指数と全死亡率の関係はU字カーブを描き、グラフ一番右の高度肥満以外ではBMIを低下させても(グラフ上少し左に移動しても)死亡率が大きく低下しないことは誰でもすぐわかります。 また、日本人の場合、コレステロール値もきわめて高い場合(家族性高コレステロール血症も含む可能性がある)以外は、心血管疾患による死亡率に大きくは寄与しません。 上記以外にも、高血圧、高血糖、喫煙などは明らにそれぞれ独立した心血管疾患の危険因子であるのに、腹囲またはBMIでの肥満がなければ単独では保健指導の対象となっていないのも、心血管疾患の発症・死亡率を下げることが目的なら合理的な施策とは思えません。 日本人男性では低下しているものの喫煙率が40%以上で他の先進国に比べて高く、喫煙により心血管疾患や肺ガンのリスクが著しく増大することにはエビデンスがあります。禁煙指導やタバコ増税などのほうがよっぽど低コストで簡単に医療費削減につながるはずなのに、どうして厚生労働省はここに切り込まないのでしょう? また、おそらく50%以上がメタボに該当するであろう中高年サラリーマンにとっては、夜間・早朝に運動しろと保健指導されるよりは、企業に帰宅時間を早めてもらって夕食から就寝までの時間を確保できるようにしたほうが簡単にメタボ解消できると思います。 注)筆者自身が腹囲とBMIでメタボと判定されるゆえ、メタボ健診に異を唱えているわけではありません、絶対にw 参考 メタボ再考:揺らぐ診断基準/4 即・病院行き(毎日新聞) メタボ再考:揺らぐ診断基準/1 「シンボル」腹囲基準(毎日新聞) メタボ再考:揺らぐ診断基準/2 世界の孤児(毎日新聞) メタボ再考:揺らぐ診断基準/3 糖尿・腎臓病(毎日新聞) メタボ再考:揺らぐ診断基準/5止 特定健診(毎日新聞) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.06.08 20:50:38
コメント(0) | コメントを書く |