テーマ:ノンジャンル。(2210)
カテゴリ:小説まがい
世間を賑わしている事件、新聞の記事より一部。 「山小屋から男の変死体」 ××県××郡××村××山、山中、山小屋にて 男性の変死体が発見された。 この遺体は、上記山小屋近くを通りかかった、同××村に住む 地元猟師の男性が小屋内部を覗いたところ異変に気付き 発見に至ったもので、発見当初、遺体は着衣を身に着けておらず 頭部及び性器、四肢の一部が欠落していた。 小屋は内部から鍵が掛けられ、外部からの侵入の形跡が無いこと 並びに同小屋内部より、犬猫、ニシキヘビ等の動物が 保護されていることから、これらの動物がこの男性の死因に携わり 死後、身体欠如部位を食したものとみて警察は捜査を進めている。 云々。 「こんちはー」と仕事で毎日顔を出す配達先事務所にて 雑誌を読んでるオヤジさん。 開かれたページをちらりと覗くと そこには「知的な冬ごもり」という見出し。 「ほぉ、冬ごもりですか」 私が冗談半分で言葉をかけると、彼は、ははん、と笑う。 時間に追われている為、話し込むこともなく そそくさとその場を後にしたので 如何なる雑誌であるのか、その内容すら分らない。 その昔“ サライ ”なんて雑誌をよく読んだが この手のものにありそうな見出しではある。 しかし、この響き。 「知的な冬ごもり」 いいですねぇ。 音も無くしんしんと降り積もる雪に閉ざされた山中、山小屋。 揺らめく暖炉の炎に、部屋は勿論のこと ランプの灯りもあたたかい。 私はロッキングチェアに揺られ、紅茶など飲みながら 優雅に読書をする。 膝の上には猫が丸まり、足元には物静かな老犬。 おっ、気が付くともうこんな時間。 職場に向かわなければ。 この雪である、ふもとの村まで徒歩で3時間。 そこから更に駅まで40分、そこで始発に乗り込み 途中、乗り継ぎを3回して、片道およそ8時間の計算である。 慌ただしく身支度をする。 年季の入ったアザラシ毛皮のコートにニット帽。 ラクダ股引(ももひき)の上にナイロン製の防寒作業ズボン 革の手袋、分厚い毛糸のマフラーを首から上、顔半分までを覆う様に 幾重にも巻くことにより外気露出部分はおおむね目のみとなる。 仕上げにかんじきを装着し、小屋の木戸を開け 白銀の世界へ躍り出る。 しかし、辺り一面真っ白でどこが道やら、四辻やら。 両脇に埋もれた木らしき小山があることから 辛うじてその中心が道であると推測出来る有様。 思った以上に雪が深く、思う様に前へ進めない。 山小屋を出てから一時間程経過しただろうか。呼吸が乱れ息苦しい。 口を覆うマフラーをずらし深呼吸をする。 凍付く外気に肺の奥まで凍りそうである。 気がつくとやんでいた雪がまた降り始めている。少々風も出てきた。 “ 早く山を下りねば ”山の天気は変わりやすいのだ。 しかし、行けども行けども、同じ景色。 そのうち吹雪き始め、視界は奪われ、風に煽られ進退不能。 雪の上にまた雪。見る間にずんずん降り積もり 腰まで埋って身動き出来ない。 焦ってもがくも、どうにもならず包み込む雪の布団で眠りたい様な。 いや、ここで寝てはいけない。気をしっかり持たねば。 と、必死で見開く瞼、凝らす視界の遠くに、白い着物の女の姿。 全身透き通るが如く白く、まるで雪の化身。 あれが、昔話で読み聞かされた雪女だろうか? そう思った直後、突如衣服を全て剥ぎ取られたかの様に 鋭い冷気が全身を駆け抜ける。 ひゅうぅぅぅぅーっ ああ、俺はここで死ぬのか・・・ いや、ちょっと待て。 お題は「知的な冬ごもり」である。 かような過酷な試練は必要無いのだ。 その生活振りは優雅、且つ自由でなくてはならない。 そう、今一度山小屋に戻ってみよう。 そして明日の仕事のことなど考えず 例えばノルマ達成のご褒美としての長期休暇 若しくは有り余る程の資産家で、働かずとも食うに困らない身分の男が 人里離れた山小屋で悠々自適に暮らす・・・そう、これでいこう。 続きを読む(ここをクリック) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006/02/10 01:01:28 AM
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