ひばかり

一ケ月程前の話であるが“カッコいいオヤジ”に出会った。
何の捻りもない。文字通りカッコいいわけだ。

そのオヤジは私の仕事の配達先である
自動車修理工場の客と思しき大型ダンプの運転手なのだけれど
その運転席に座っている姿をちらりと覗き見ただけで
どこかタダ者ではない、他とは違うオーラの様なものがある。

大体からして、配達先であるその会社の従業員自体
少々癖のある人物が多く
自分は幸いにも彼らに気に入られているから好いものの
自分が運ぶ荷物の配送依頼主である会社営業所の人間など
そこから電話着信があるだけでもビクビクである。

まず電話を受けると、決まって開口一番

「おう、お前誰だ？」といった威圧感たっぷりの挨拶から始まり

そこから本題である要求が捻り出されるそうで
なにしろ機嫌を損ねると厄介。
そこで少々無理な要求も飲まざるを得ず
バタバタと対応に追われるわけである。

ま、自分に言わせれば
いつもニコニコ“　気のいいおっちゃん　”なのだが。

とまあ、こういった癖の強い人間ばかりが整備を務める修理工場。
「類は友を呼ぶ」といった感じであろうか
集まる客も個性的な人間が多い様である。

で、その“　カッコいいオヤジ　”
歳の頃は５０代半ば位だろうか
全体的に短い真っ白な白髪の前髪は横一直線に切り揃えられ
モミアゲに顎ヒゲ。
彫りの深い端正な顔立ちの中に、凛々しく存在する筈の眉は
剃り落とされていて
クリアレンズ、メタルフレームのサングラス
首にはバンダナといった、文章で特徴を挙げるだけでは
その人が持つ独特な空気までは表現し難く
微妙な感じではあるが
実物は、アンバランスとも思えそうなそれら特徴の数々が
絶妙なバランスでもって均整を保っており
生活感の無い、謎を秘めたその風貌は
外国映画に出てくるマフィアのボスさながらの存在感である。

一体どの様な人物なのか、非常に興味が湧くのであるけれど
例の如く時間に追われている自分は、手早く納品を終え
そそくさとトラックに乗り込もうとした。

が、ダンプから降り立ったそのオヤジに
以外にも気さくに声をかけられる。
スラリとした身の丈は、身長１７０センチの自分より、幾分高い。

「その頭、カッコええなぁ。それ、ツイスト？
　　　　　　　　　　　　俺もしてえなぁ。　　そりゃカッコええわ」

　　ん？ツイスト？

少々意味不明ではあるが、自分もこれに対し

「いやぁ、オヤっさんの方こそカッコええですよ」

とまぁ、初対面であるにも関わらず
その会話は終始お互いを褒めちぎり合うといった
訳の解らぬ展開のまま幕を下ろしたわけである。

その後、彼とは一度も顔を合わせていない。



１２、３年程前、とある有名メーカーのエアコン製作工場で
働いていた時、その職場で出会ったオヤジもカッコよかった。

その頃は丁度、世の中の景気が傾き始めた時期で
リストラやら、なんやらで、工場内の人員変動が激しく
そのオヤジとも極めて短期間、同じ部署で働いただけなのであるが

そのオヤジ、歳の頃は４０代半ば位だったろうか
寡黙でありながら何か内に秘めていそうなタイプで
ガッチリした日本的な顔立ちに
キッチリ整えたリーゼントが似合う渋いオヤジであった。

ある日、自分はいつもと変わらぬ流れ作業に
就いていたわけなのだけれど
作業中、ふと背後に人の気配を感じ、振り返ったその時。
勢い余った自分の右手が手刀の形で（平たく言えば空手チョップね）
右後方に立っていたオヤジの股間をモロに直撃してしまったのだ。

全く一瞬の出来事ではあるが、ずっしり重たく確実な手応えである。

その時、寡黙な彼の反応は、苦みばしった渋い顔の表情もそのままに
男の色気を感じさせる低い声で一言。

　　　「おっ」

と発したのみであった。

カッコいいオヤジも例外に漏れず、睾丸は急所であったらしい。

自分は込み上げる笑いを抑えるのに必死で
詫びを入れることすらままならなかった。

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今回、二人のカッコいいオヤジについて記したわけだが
いずれにも共通するのは、彼らの人間性や生活に謎があり
そのミステリアスな部分が
より印象を強める原因となっているということである。
だからと言って自分には、あちらのケはないわけで
くれぐれも誤解無き様、お願いしたい。

しかし、男３８歳。カッコよく歳をとりたいものである。




ヲシテネ。