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ひばかり

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2006/03/24
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今日~で 全てが終わ~るさ  今日~で 全てが変わる

今日~で 全てが報われ~る  今日~で 全てが始まる~さ

カッと見開いた両の目は視線定まらず、随喜の涙。
鼻水流るるまま、今にも食らい付かんばかりに歯を剥いた口からは
涎とめどもなく。
呪う様に祈る気持ちで髪振り乱し
喉の奥より感情のエキスを搾り出すが如くに
上記フレーズを連呼しつつ、いざ宝くじ売り場へ。

これ毎週木曜日の日課。

自分の中では、当の昔に伝説のヒーローとなっている
この私ではあるが、客観的に眺むれば
特に世間に認められているふうでもなく
決して社会的地位が高いわけでもない。

いや、銀色に光り輝く水面よりも
むしろ奥底に沈殿した汚泥の方が近いくらいである。
そんな僕が一発逆転、億万長者と成る為に
「これしかない!」
と、始めた数字選択式宝クジ。

毎週木曜に発表される当選数字、6つを
43個の中より予測し選択するわけである。

とはいえこの僕、決してお金が好きというわけではない。
あんなものは紙切れに過ぎぬわけで、例えてひとつ挙げるならば
富豪と成ることにより、生活費捻り出すべく労働に
貴重な時間を費やす必要性がなくなり、これによりそこから
何者にも支配されぬ自由な時間が生まれくる。

こうして生まれた珠玉の時間
本を読み、絵を描き、唄を歌いして
仙人の如く優雅な暮らしが出来るのである。

よって「ひひひ」といやらしい笑いを湛えながら
紙幣に埋もれて眠りたいなどというわけではないのだ。断じて!

ところで、その仙人が何故ゆえそれ程までに優雅な暮らしが出来るか?
これについて考えてみた。
常人と異なるは、まずその風貌。

昔話や古い書物などに登場するその姿、いずれを閲してみても
その姿、異様なまでにポッコリと下腹が迫り出している。

「なるほど、散々旨いものを飲み食いして腹が出たか。
いくら優雅とはいえ、ああはなりたくねえなぁ。ははっ」
なんて侮蔑するも
よくよく調べてみると実際は単なる肥満によるものではなく
これ、横隔膜の異常な発達にあるという。

そしてそれがどうやら中国の気功鍛練で度々紹介される
丹田強化に起因するものらしく、更に調べてみると
この気功法に精通し極むることにより、潜在能力を開花させ
その結果、常人には持ち得ぬあらゆる力を発揮することが可能となり
超脱の域に達するというのである。

であるからして、あの奇妙極まりない風体は
厳しい修行を貫いてきた証であり
少々腹が出ていようが、頭が禿げて変形していようが
到底、馬鹿に出来る代物ではないのだ。

「これだ!」 全身にびりりと電気が走りましたね。

全て理解出来ました。

仙人は、修行により備わった千里眼やら何やらといった
特殊な能力でもって万事万象お見通しなのである。
よって木曜日の数字選択式宝クジで発現する数字を読み当てるなど
朝飯前の屁の河童。
平素はのんべんだらり優雅に暮らしていても
これ生活の心配など微塵もない。

人間、生活が顔に出ると言われるが
仙人達のあの余裕に満ちた、弛緩しきった顔を見れば一目瞭然である。

そんなわけで、仙人に近付くべく気功法関連の書を読み漁り
その鍛練法の実践開始。

ところが、この書中で度々登場する
人間の体内を流るる“気”というもの
どうも雲を掴むが如く実体が無く
紹介されている鍛練法どれをとっても
今一つ単調な動作の繰り返しで
「こんなことで仙人になれるのだろうか?」
と疑心の雲湧き立つものばかりである。

しかしながら、ここで諦めては仙人には成れぬわけで
「ローマは一日にして成らず」と戒めることわざ同様
鍛練も地道な積み重ねが肝心なのだ。

そうして、ふた月、み月と地味な修行の日々を送るのだけれど
どうしたことか、一向にその鍛練の成果の程が実感出来ず
洗面所の鏡に映る自分の下腹を覗き込むも
鍛練前と比して変わらぬ様子である。

うむむ、と頭を抱え、たまたま開いたインターネットオークションで
見掛けた「超能力開発法」なるタイトルの本。

“そうか、こいつと平行して鍛練を続ければ近道に違いない”
とこれを即時落札。

数日後届いた書のページを開いてみると
カードを用いた透視能力の開発法など
事こまやかに解説されており
これを実践することによりそれなりの成果は期待出来そうである。

で、カードを用いこの際、我が娘も巻き込み
ゲーム感覚でのトレーニング開始。
なんでも熟練すると、読み当てるべく図形や数字が
眉間の上辺りに浮かんで見えるようになるらしい。

そこで、これを見ようと暇を見付けては意識を集中し
毎週木曜が近付く度、更にその頻度は増し
仕事の合間なども目線を上に向け、凝らしてみるのだけれど
見える様な、見えない様な・・・・

それ以前に、平素は向けぬ方向に殊更力んで目線をやるもんだから
眼性疲労激しく、やめました。

とまあ、そんなこんなで、億万長者という夢に挑み続けてはや三年。

いつもの唄を口ずさみつつ宝くじ売り場の窓口に並ぶ。

ちゃりん!

背後で小銭の落つる音。

悲しいかな、これに敏感に反応してしまう僕は
仙人にはまだまだ程遠いのかもしれない。


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ヲシテネ。












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最終更新日  2006/03/25 10:10:08 PM
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