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ある内科医の独り言

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2006.03.01
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遅まきながら時事ネタでも。

一昨年、福福島県の県立病院で腹式帝王切開術を受けた女性が死亡した。そして約1年ちょっとの期間を経て先日の2月18日、執刀医が業務上過失致死および医師法違反の疑いで逮捕された。

この逮捕の一件については各地でかなりの反響が広がり、不当逮捕だということでカンパを呼びかける向きもあるようだ。

残念ながら事実関係などは詳細に知りうる立場ではないので、あくまでも地方の一内科医としていわせてもらえれば

「やりすぎ」

の一言に尽きる。日本産婦人科学会および日本産婦人科医会も緊急声明を発表していることから衝撃的な逮捕であったことことは間違いない。そして残念ながら、この国では善意や努力というものがほとんど評価されなくなってしまっているらしい。

彼の国には「良きサマリア人法」という法律がある。急病人が発生し、その場に居合わせたものが善意で応急処置をした場合、その結果は問わないという法律だ。それは善意を守る法律であり、努力を評価する法律でもある。

 …… 一生懸命救命しようと努力した、しかし結果が伴わなかった。 ……

しかしそれでもまだ、救命しようとした人を非難できるのだろうか。もちろん、その努力の内容にもよるだろう。しかし今回逮捕された先生は何の努力もせず看過していたわけではないはずだ。予期せぬ事態が起こったにもかかわらず、メスを放り投げて手術室から退散することもなく、最善を尽くしただけのことだ。

癒着胎盤という非常にまれなケースかつ十分なスタッフや資材もない状況下で、最善を尽くしたであろうに逮捕という不幸な結果に終わってしまった。逮捕された以上、検察側から起訴を受け裁判になるだろうが、いったいどういった結果になるのだろうか。

ご遺族の方々の心情も理解できないではないが、出産という一大事業において100%安全ということはあり得ない。100%安全を求めるのなら妊娠しなければ良かったということにもなりかねない。現在、日本の周産期死亡率は世界最低レベルを維持しているが、これは逮捕されてしまった先生のような偉大な先達が成し遂げた努力の結晶に他ならない。だからこそ今回の妊婦死亡の一件において、ご遺族以上に悔やんでいるのは逮捕された先生本人かもしれないのだ。医師が自分の無力を悔いるとき、それを刑事という法律を以て裁こうとするのなら医者は後悔すらできない人種となるだろう。そして患者さんとの溝は永遠に埋まらなくなってしまう。

原因をどこに追求するのか、それが見えないままの逮捕劇。とりあえず執刀医や主治医をしょっ引けば何とかなるといった風潮では医療者側も報われない。善意や努力を無にするこうした流れは食い止められないのだろうか。

追伸:尚、不幸にも逮捕された先生には臨月を迎えた妻がいたという。彼女が癒着胎盤で同じようなケースにならなかったとも限らないが、それでも人は子を産み、育てていく。人の命の重さを知っているからこそ、ご夫妻は子作りをされたのではないかとさえ思えてくる……。

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最終更新日  2006.03.01 16:22:43
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