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ある内科医の独り言

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2006.03.13
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医師という職業は御承知の通り法律でその業務が定められている職業である。詳しくは医師法を参照していただくとして、今日は傷害行為について書いておきたい。

病院にやってきて、一通りの診察が終わり諸検査をしたとしよう。診察ぐらいならまぁともかく、まずは服を脱ぐことから始めていただく。これは当然といえば当然なのだが、昨今若い女性の裸など見たこともない僕にとって(笑)服も脱がせない診察は妥当性を欠いてるよなぁ……と思いつつ聴診してみる。

別にこちらは何も悪いことをしていないが、「脱いで」というと「何で脱がなきゃいけないんですか?」という押し問答みたいなものが昔は良くあったのだ。それ以来、面倒は避けて適当にあしらうようにしている。

これで心雑音とか見逃したら訴訟なんだろうなぁ……という不安はぬぐえない。かといって無理に脱がせてもセクハラだなんだとかで訴訟なんだろうなぁ……という不安もぬぐいきれない。

結局「脱がずに診てください」ということか。時々皮膚病変なんかを見つけることがあったりして、脱がないとわからないこともあるんだけれども放置している。

無事に診察が済んで次は検査だ。

中央処置室へ向かうあなたの足取りは重い。痛い採血が待っているからだ。ましてや採血担当が新人だったりしたらなおさらイヤだ。それでも何とか採血をすませてもらう。

採血などの行為もどう見たって傷害行為だ。血管に針を刺すのと出刃包丁で胸を突き刺すのも本質的には何もかわりはしない。

その後胸部写真を撮ったとしよう。痛くはないけれども一瞬被爆する。しかしごく低量であったとしても被爆には違いない。昔は放射線技師に白血病などが多かったという話も聞く。核兵器並みの破壊力はなくとも、少なからずあなたの体に影響を与えていることは間違いない。

放射性物質をあちこちにばらまけば犯罪だろうが、病院という限られた空間ではこの放射線ですら犯罪には当たらない。

結局、我々が行う医療行為というのは多少なりとも患者さんに侵襲を加えるものであることには違いない。こうした医療行為は傷害と紙一重のところで成立している。ここまでなら治療で、ここからは傷害という線引きはかなり難しい。

先に挙げた医師法という後ろ盾があって初めて我々は人の体を切り刻み、放射能を浴びせ、麻薬を盛ることができるのだ。

その医業行為そのものを揺るがしかねない事件が、さきの産婦人科医師逮捕の件だった。先日、ついに起訴されたことからも検察は徹底して犯罪と認定しようとしているらしい。

ことの結末はどうであれ、病院で何の侵襲も受けないことなど不可能に近い。そもそも、病気やけがなどにすでに侵されているわけだから病気そのもののリスクと治療を受けるリスクを天秤にかけ続けなければならないだろう。

前にも書いたと思うが、故意で患者さんを貶めようとする医者は皆無に等しい。できれば目の前の患者さんが良くなってくれることだけを願っているはずだ。それがもっとも双方にとって遺恨を残さない道だからだ。

最近の風潮は非常に危険な匂いがする。医療行為を傷害と同レベルに考えてくれる人が少ないからだ。侵襲のない検査、侵襲のない手術……。以下に医学が発展しても100%の無侵襲はあり得ないだろう。もしそんな時代がくれば病院や医者などは不要になるはずだ。

きれい事だけでは病気は治らない。治療する者・される者双方が痛みを分かち合い、汚い部分をさらけ出すことで初めて医療は成立するんじゃないだろうか。今回の一件で、これ以上医療が萎縮しないことを望むと同時に、医療を萎縮させない社会になって欲しいと切に願う。

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最終更新日  2006.03.13 12:17:18
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