温度差がもたらす色
牛舎の入り口に立てかけてあった古いレーキに、いつのまにか絡みつき、色づいた雑草。日ごとに冷たさを増す、風の温度を教えてくれる。当牧場のまわりも、あちこちで木々が色づき、葉を落とし、やがて次の命に生まれ変わる準備をしている。秋だなあ・・・というか、冬がそこまで来てるんだなあ・・・と思う。もっと若かった頃、秋になると「秋用メイク」の新色とか来年用の手帳が出回るのが楽しみだった。色づいた街路樹を見ながら、ちょっと冷たくなった風を感じながら、いろんなお店を見てまわった。今は・・・それはなくなった。そんな私だが、最近、毎日お化粧をしている。どこへ出かけるわけでもない、毎日うちにいて、相変わらずヤッケを着て牛舎の仕事をしている。必要か不必要か・・・といわれると、いらないのかもしれない。だけど、している。この仕事をしてから、めったにお化粧をしてうちにいるってことがなかったために、今時の若者なんかよりずっと下手だ。それでも冠婚葬祭なんかで、どうしてもお化粧が必要なときはしていたが、かえって妙な感じになる。ファンデーションに塗られてるというような感じ。お化粧ってしてないと忘れるんだなあ・・・と実感する。スカートもはかなくなった。仕事柄、すぐに作業着に着替えられるようにしないと、仕事に出遅れてしまうから。はじめははいたりしていたが、着替えがどうしても遅くなり、結果家族じゅうから「なにやってんだよ!」という顔をされるので、まったくはかなくなってしまった。で、冠婚葬祭なんかでやむを得ずはく場合、やはりスカートにはかれてる感じになってしまう。でもまあ、作業効率を考えるとスカートはちょっと・・・だが、お化粧くらいなら毎日できる。もともとあまりあちこち「創意工夫」しないタイプのお化粧なのでものの5分くらいで完了する。毎日お化粧する。・・・たったそれだけのことなのに、なんだかぐっと気分が華やぐ。たった5分でできるのに、この数年私は何をしていたのだろう。「なにやってんの」とか「そんなことする暇があったら、牛のことをしろ」とかいう言葉に押しつぶされそうになっていたのかもしれない。でも酪農家だからって、5分10分の時間もないなんてわけじゃない。これからの自分の人生の時間、鏡の中の自分に「よし、今日もいい顔してる」って思えるようにいきたい。なによりこの積み重ねで、少しはお化粧も上達するだろう。牛舎入り口の、ウェルカムスペース。秋は、たのし。