児童書を翻訳する―秘密のドルーン裏話
小2の長男に無理なく読めること。何よりもそれを意識して訳した『秘密のドルーン』シリーズですが、なにしろ児童書を訳すのは初めてで、試行錯誤しながらの作業でした。まず、登場人物の言葉遣い。主人公の3人組は、どこにでもいる小学生男女。私としては、いまどきの日本の小学生が読んで共感できる、違和感のない口調にしたい。例えば、『エルマーのぼうけん』くらい評価が確立した名作なら、今ではちょっと古くさいセリフの翻訳も、逆に文学的な匂いがして受け入れられるでしょう。 例えば、小さなエルマーのセリフはこんな感じ。 「これは、とびきりじょうとうのチューインガムですよ」 「どこでもすきなところへ、とんでいけたら、すばらしいじゃないか!」エルマーは1963年初版発行。当時の少年はなんと言葉遣いが美しかったのだろう!(お手本となる言葉遣いも意識したのでしょうね。)ウチの子の口からは、絶対飛び出さないセリフです。とはいえ、今私がドルーンをこう訳しても、本嫌いの読者はついてきません。『ドルーン』シリーズの価値は、文学的名作というよりも、読書の入り口で足踏みしている子供たちの背中を押してあげることですから。だからといってコミック本の吹き出しほど「シュン」な言葉遣いにすると、今度は賞味期限の短い作品になってしまいます。 例えば、コロコロコミックのセリフはこんな感じ。 「うう・・・ハラへった・・・肉まん食いて~~」 「カッコ悪うーーーっ!!!」 「なんか、ずるくない~~っ!?」いいですね、いかにも今の小学生が言いそう! でも、児童書は息長く売れ続けるジャンルなので、10年後に「ダサ」と思われる言い回しや語尾は避けたい。それで、結局、講談社の青い鳥シリーズや童心社の怪談レストランシリーズなど、日本の人気新作児童書を参考にしながら、自分なりのさじ加減をしました。お子さん達が違和感を感じず、テンポがよく、それでいて正しい言葉遣いになったと思います。あとは、各登場人物の個性が出るよう、言葉遣いを工夫。自分の呼び方も、真面目なエリックは「ぼく」、やんちゃなニールは「おれ」、ジュリは「わたし」、キーア姫は「わたくし」としました。だれそれが言った、と毎回書き添えなくても、誰のセリフかわかるためでもあります。ちなみに、悪の魔法使いガスパー卿は「おれさま」。クモの小人マックスは、かなり迷った末、機転が利いて面倒見がよくて、でもちょっとずっこけた感じを出すために「おいら」に。老魔法使いのガーランの「わし」はすぐ決まりましたが、子供たちへの呼びかけを「おまえさんたち」とするか「そなたたち」とするかで、迷いました。(どちらにしたかは、本を読んで見てくださいね!)このところ、別の仕事が忙しかったのですが、久々にドルーンのことを書いて見ました。今、読者の皆さんにプレゼントするポスターの準備が進んでいます。私も翻訳でお手伝いしていますが、ドルーン好きの方には必須の内容です。はさみこみのハガキを送ればもらえますので、ぜひ感想を添えて送ってくださいませ。秘密のドルーン(3&4)秘密のドルーン(1&2)