「僕が医者を辞めた理由」という本がありました。僕が医学生のころ読んだ本です。その時僕は美容師から医者になろうとしていましたので、医者は辞めても注目されるんだ、と単純に自分の選択が間違ってはいなかったと思ったものでした。なぜなら、「僕が美容師を辞めた理由」では誰も関心を示しませんが、
「僕が医者を辞めた理由」だと、どうして辞めたのか知りたい人も出てくるからです。この頃冗談まがいに、この本を評して友人のKに、医者は辞めても注目されるいい職業なんだ、なんて話したことを思い出します。Kも僕と同様遅れて医学部に入学していますので、卒業の時にはもう既に30歳でした。それなのに何を勘違いしたか、そのKは、卒業後一般外科に進み勤務医として今も第一線で活躍(?)しています。僕もKも運よく医者になれましたが、医者になってからは一度しか会っていません。しかし、Kは医学生時代同様にひょうひょうと仕事をこなしているのではないかと想像しています。
僕は、美容外科医に憧れて医者になりました。特に自分がここ20年来研究・実践している「美容医学」を究めることが大きな目標です。これは、今では僕のライフワークになったと言えます。それと、たぶん医者に憧れて医者になりました。美容師としてフロアー(お店)で働いたことのある僕は、美容と医学との共通分野(美容医学)を学びたいという純粋な気持ちの他に、医者はそれだけでいい職業だと思いました。なぜなら、お金をもらった上に頭まで下げてもらえる(患者さんは治療費を払い、しかも医者にお礼まで言って帰って行きます)、そんな職業はめったにありません。美容師の世界でしたら考えられないことです。
僕が美容学校を出てインターン(当時はまだインターン制度がありました)をしていた美容室は、当時珍しく男性ばかりのお店でした。お店がある繁華街にあったこともあり、毎日のように髪をセットしに来るクラブのママさんがいました。そのママさんから見れば、店にいる僕たちはホストクラブのホストとなんら変わるところもなかったのでしょう。僕は、そのママさんに好かれたのか、相手にもされなかったのか、いつも指名されお茶を出し、肩や首や背中をマッサージするだけの役目でした。それは、もちろん無料のサービスだったのですが、お礼を言われた覚えは一度もありません。もちろん、インターンの僕の仕事はそこまでで、本来の目的であるセットは、他の技術者の役目でした。未だに、あのママさんはどういう気持ちで僕を指名していたのか不思議です。そして、肩をもんでもらってもお礼を言う必要のない自信に改めて関心します。もちろん、当時とてもウブだった僕は、言われるがままにお茶を汲んでいただけです。
僕は、たぶんお茶汲みも悪くないけど、いつかそのママさんが自然に頭を下げるところを見たくなって、今この世界にいるのでしょうか?・・・・・。