もうすぐ日が変わる。僕は明日のために早く休もうと思って一旦ベッドに入った。僕の寝室は2階にある。階下からは、wifeの弾いているピアノの心地よい音色が伝わってくる。いつもなら、この音色は僕の睡眠を促進すらしても邪魔することはない。しかし、今日はどうしたことか、ピアノの音を聞けば聞くほど目がさめてしまう。そして、ひとつの演奏が終わった時に僕は深い眠りに落ちたのではなく、こうして日記を書いている。
今日は、夜の食事の時にお酒も飲んでいるし、ベッドに入ればすぐに眠れるはずなのですが、なにかおかしい。僕は、医師になってもう15年になります。ひとり立ちして、つまり開業してもうそろそろ7年です。なのに、どういうことなのでしょうか。試験の前に眠れない学生、試合の前に眠れないスポーツ選手のように、明日の手術のせいで僕も眠れないのでしょうか。でも、しかし、明日予定されている手術はもう何百回と経験しているはずで、心配することなど何もないはずです。
これはいったいどうしたことか。むしろ、早く休んで体調を整えた方がいいに決まっている。しかし、階下のピアノは緩やかな音色に変わり、その音色が僕に思い出させたのだ。僕が眠れないのは、間違いなく明日の手術のためだと。それは、手術そのものよりも患者さんの方に原因があるようです。数ヶ月前、明日手術を予定された患者さんがカウンセリングに訪れた際、「先生、腕はいいの?」と聞かれたような気がします。たぶん、その場では、笑ってごまかしたのでしょう。そんな時、僕はつい笑ってしまうところがあるからです。もちろん、声など出さずに、さあ、どうかな?というニュアンスの笑いです。自分でもその質問の正確な答えを持っていないから、笑うしかないのです。でも、あえて言えば、僕は腕がいいとは言えない。僕より腕のいい美容外科医なら他にたくさんいるからです。ただ、僕の腕を必要十分に発揮できる自信はあります。たぶん、今夜はその自信を明日の目覚めから自覚する準備が完了していないので、まだ眠れないのでしょう。
“Got hand”という言葉がある。これはまさしくその分野でピカイチの腕を持つ専門医師だけに与えられる。でも、僕はちょっとキザだけど“Got heart”でありたいかな。もうwifeのピアノも終わったようだし、明日のために眠ることにしましょう。