誰でも一度くらい無銭飲食(いわゆる食い逃げ)をしたことがあるのではないでしょうか。僕はと言うと、もちろんあります。例えば、どうしようもなくお腹が空いていて、しかもぜんぜんお金がなければ無銭飲食も仕方ないかも知れません。実は、僕の家は、僕が小さかったころ飲食店をしていましたので、ごくまれに無銭飲食をしている大人のひとを見ることがありました。でも、お金を払わずに普通に帰って行っても、また何日か後にお店に来ていましたので、もしかすると、ほんとうはツケだったのかも知れません。だから、僕が見た日だけ無銭飲食だったのかな?
ごくまれに、僕のクリニックでも無銭診療?をする人がいます。今日来た患者さんも1年ほど前に無銭診療しました。手術の予約をちゃんと取り、手術時間にもきっちり来たのですが、手術後支払うべきお金がぜんぜん無いのです。本人は医療ローンを組むつもりだったらしいのですが、これまたブラックリスト入りでダメ。結局、後日支払うということで、その日は支払わずに帰りました。しかし、いっこうに支払いに来ません。僕のクリニックのスタッフがしつこく電話したり、手紙を出したりしてやっと支払ったという経緯があります。
今日、その彼女が来た理由は、手術した部位の一部が少し化膿して腫れてしまったということです。確かに、責任の一旦は僕にあるような気もしますが、手術後は抜糸しか来院せずに、こちらが説明した術後のチェックに一度もきていないのは、どうかと思いました。でも、僕は患者さんの前ではどうも低頭してしまうようです。今日も恨み言ひとつも言わずに、化膿部位の処置を精一杯しました。この患者さんは、たぶん、化膿したから仕方なくクリニックに来たのだろうと思います。こんな時僕は、ちょっぴり悲しくもなりますが、逆を言えば、メインの手術は成功し、患者さんも大満足だったと言うことにもなるのではないかと考えるのです。だからこそ、術後1年も顔を見せなかったのです。それに、ここ3日くらいで化膿してきたと言っていたので、手術とは無関係でしょう。1年前にした手術が直接的な原因で、今さらそこが化膿を起こすというようなことは考えにくいからです。
でも、やはりわからないのは、無銭飲食ならず無銭診療をよくできるなあ、と言うことです。その心臓の強さを僕に教えてほしいほどです。そうそう、彼女は、今日も半無銭診療でした。お財布に帰りの電車賃を残すと、今日の診察代を全額支払うお金が無いそうで、半額ほどしか払って行きませんでした。まあ、二度あることは三度あると言いますから、次は気をつけます。(でも、次はもうないかな。)