僕のクリニックは、どういうわけかオカマちゃん(専門的にはトランスジェンダー)が多いのです。S君もその一人です。いつからS君が僕のクリニックに来るようになったのか、僕はもう忘れましたが、今ではS君が僕のクリニックに来るのはごく自然なことのように僕には思えるのです。そんなこともあり、S君はいわゆる「僕の患者さん」と言っていいのでしょう。S君は、今僕のクリニックに来るときはまだ男性ですが、夜には女性になるそうです。僕のクリニックに来るようになった最初の頃に、S君は自分が働いているお店の名刺を僕にくれましたが、僕は未だにそこに行ったことがありません。S君は、僕のクリニックで、ホルモン注射を定期的に受け、時々他の治療を受けたりしています。
僕は、開業するまでS君のような患者さんを考えていませんでした。つまり、僕のクリニックの患者テリトリーに、オカマちゃんはいませんでした。しかし、今実際に、S君を治療していると、美容外科の担っている役割は、けっこう広く、しかも日なただけではないと思えてくるのです。S君自体は、普通の患者さんですし、いやむしろ、一度も僕のクリニックのスタッフとトラブルを起こしたこともないし、何か理不尽な文句を言ったこともない、いたっていい患者さんです。
僕は、僕の患者さんの中で、このS君がこれからどうなるのかは、とても気になります。もしかしたら、僕が思い描いていた美容外科の世界の壁を飛び越えてしまうのではないかと思うからです。しかも、少なからず僕もその跳躍の手助けをしているとわかるからです。S君は、いつかほんとうにSさんになるかも知れないのです。いや、このまま行けば確実なるでしょう。その時も、Sさんが僕の患者さんであることを、今は願うしかありません。