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WiMAX事業、ドコモ、KDDI落選のシナリオ
"日本総合研究所 研究事業本部 理事・主席研究員の新保豊氏" 6月に設立された業界団体「WiMAXフォーラム」の日本オフィスは9月3日、都内で会見を開き、WiMAXフォーラムの現状や日本オフィスの紹介を行った。会見の最後には、招待講演として日本総合研究所 研究事業本部 理事・主席研究員である新保豊氏が「2.5GHz帯を巡る課題と将来展望」と題した講演を行い、この秋予定されている国内での2.5GHz帯のブロードバンド無線通信(BWA)の免許交付についての見通しについて、総務省が取りうるロジックにまで踏み込み、予想されるシナリオを展開してみせた。 世界各地で導入が進むモバイルWiMAX WiMAX Forumを代表して講演を行ったマーケティング担当副代表のモハンマド・シャクリ氏によれば、現在同フォーラムのメンバー数は約460社で、年内にも500社を超える見通し。シャクリ氏は「メンバーの構成はサービスプロバイダーがいちばん多く、コンテンツ、システム、デバイスのベンダーと続く。この多様な構成はいいことだ。このエコシステムでいかに収益を出していけるかがポイントになる」と、WiMAX ForumがIT業界全体を巻き込んだ標準化活動であることを強調。日本からも富士通やKDDIがボードメンバー15社のうちの2社となるなど、ここ2、3年で積極的に同フォーラムに参加しているという。 WiMAXは現在、先進国だけでなく新興国でも採用が進んでおり、サービス開始が発表されている。米国ではスプリント・ネクステルとクリアワイヤが2008年にWiMAXサービスを開始するとアナウンスしている。特にスプリント・ネクステルは2~3年でカバー人口1億人を目指すとしており、動向が注目されている。新興国ではパキスタン、バーレーン、ロシア、チリ、台湾、ブラジル、アルゼンチン、イラクなどで規模の大小はあれ導入が計画されていという。シャクリ氏によればWiMAXサービスの利用者は4、5年で5000~6000万人になるという。インドでは向こう5年で3億人がWiMAXユーザーになるという試算もあるという。 新規参入の2枠は誰の手に? 総務省が7月に明らかにした2.5GHz帯の割り当て方針によれば、2545MHzから2630MHzまでの範囲に、30MHz幅のモバイル通信用のバンドが2本、それに挟まれる形で10MHz幅で固定無線アクセス(FWA)のバンドが1本割り当てられることになっている。FWAはブロードバンドが利用しづらい地域向けのもの。となると、移動体向けのBWA事業を行うには2本のバンドのいずれかの免許を取得する必要がある。 免許交付の方針として総務省はこれまでに、「免許認定から3年以内でサービスを開始すること」、「5年以内に人口カバー率50%」などの要件を明らかにしている。また、3G携帯電話サービスを行うキャリアおよび、3G携帯電話サービスを行う事業体が3分の1以上を出資する事業体からの申請を認めない方針、いわゆる「3分の1規制」を打ち出している。3分の1という数字は、企業の運営方針に関わる特別決議の拒否権を持つ株主の最低ラインで、事実上、既存キャリアの直接参加を排除した形だ。 こうした中、既存キャリア大手や通信会社は、共同出資による新規事業会社設立を発表し、免許取得に動いている。6月にはイー・アクセスとソフトバンクモバイルが、8月にはKDDIと京セラが、9月に入ってからはNTTドコモとアッカが手を組むなど、2枠しかない無線通信の免許獲得に向けての動きが活発化している。 注目されるのは、総務省がどの事業者(グループ)に免許を交付するのか、また、どのような理由で交付するかだ。 招待講演を行った日本総合研究所 研究事業本部 理事・主席研究員、新保豊氏によれば、NTTドコモやKDDI、あるいはその両方が落選するシナリオもあり得るという。 “ウィルコム当確”も疑問 今回2.5GHz帯で対象となる無線通信方式は4つあるが、クアルコムと京セラのIEEE 802.20(それぞれ拡張FlashOFDM、拡張iBurstとも呼ばれる)は標準化は普及の見込みからして望み薄。本命は、次世代PHSのウィルコムとWiMAX(正確にはモバイルWiMAX=IEEE 802.16e-2005)を掲げるキャリア連合陣営だ。 3分の1規制の対象とならないウィルコムは、2枠のうち1枠が与えられるのが確実とする見方もあるが、新保氏は、いくつかの理由から次世代PHSを外す可能性を指摘する。 理由の1つは、WiMAXと次世代PHSで技術間競争をする意義よりも、国際標準として勢いを増しつつあるWiMAXで1本化することのほうが、国益にかなうからだ。諸外国で190MHz程度のバンド幅が割り当てられるBWAサービスで、日本は30MHz×2本という狭い領域しか割り当てが当面行われない。その細切れの狭い領域で箱庭的な競争をしている場合ではない。規制当局である総務省は、そう考えるのではないかというのが新保氏の推論だ。WiFi同様に、WiMAXは世界中で標準化され導入が始まっている通信規格だ。各国で比較的近い周波数帯が割り当てられているため、ローミング可能なデバイスも作りやすい。この巨大なポテンシャルを持つグローバル市場の興隆を前にして、技術間競争をしている暇は日本にはないのではないか。 1つの基地局のカバー範囲が狭いマイクロセル方式のPHSは、確かに技術的に優れた面がある。ユーザーの密度が高くなったときにも、基地局当たりの利用者数が多くならず、高いスループットが得られる。より広い範囲をカバーするWiMAXや3Gなどでは、1つの基地局に多くのユーザーがぶら下がることになり、将来的に帯域不足が起こる可能性もある。これは基地局の処理能力の問題ではなく、同一周波数の電波を同一空間内で使う無線通信の原理的な制限だ。 しかし、そうしたPHSのメリットや技術的な可能性も、グローバルに展開される標準化と技術開発競争の前には小さく見える。次世代PHSが国際市場で通用するかと言えば、その可能性は小さいからだ。新保氏は理由を2つ指摘する。 1つは、現PHSが普及しており、最も有望である中国市場ですら、次世代PHSの受容が進まないだろうという理由。現在、中国市場ではPHSが1億2000万を超える高い普及率を見せているが、PHSと次世代PHSでは利用周波数帯が異なる。中国が改めて2.5GHz帯で次世代PHSに周波数帯を割り当てるかといえば、それはありそうにない。 また、次世代PHSはWiMAXや4Gと同様に変調方式にOFDMを用いる。つまり、もはや「PHS=日本の独自技術」ではなく、特許使用のロイヤルティ収入も得られない。 こうしたことから、新保氏は総務省がWiMAXに1本化する可能性もあると指摘する。 免許にいちばん近いのはソフトバンク・イーアクセス陣営 新保氏によれば、免許に最も近い位置にいるのはソフトバンクモバイルとイー・アクセスの陣営だ。もともとNTTドコモやKDDIに比べて所有する帯域幅が少なく、そのことは再三指摘されてきた。電波帯域同様に市場シェアで見ても、日本の携帯電話市場は2社による寡占に近い状態が続いている。 特定の産業における市場の寡占具合を判断する指標の1つ、HHI指標で見ると、欧米諸国で2000~3000程度であるのに対して日本は約3800。その判断の当否は別として、規制当局である総務省が、この市場に競争的にしようと考えるなら、シェア16%で第3位のソフトバンクモバイルに免許を交付する可能性が高いのではないかという。 ソフトバンク陣営に1枠が与えられるとすれば、残り1枠をNTTドコモ陣営とKDDI陣営が奪い合うことになる。新保氏は、これまでの経緯からKDDI陣営がソフトバンク陣営に接近する可能性があるとしながらも、さらに別のシナリオを展開してみせた。 ドコモもしくはKDDI落選の可能性 3分の1規制が発表された時にこそ既存キャリアは反対の声を挙げたが、現在に至るまでNTTドコモもKDDIも「いつになくおとなしい」(新保氏)。 今回に限った話ではないが、事業者による免許申請と当局による審査・免許交付といっても、関係者が密室で落としどころを模索している可能性が高い。新保氏はこう指摘する。「もしドコモやKDDIが落選の憂き目にあうとすれば、水面下ではそれに見合う落としどころが、すでに関係者によって模索されているのではないか?」。 落としどころとしてあり得るのは、2.5GHz帯の再々編によるバンド幅の追加だ。 今回割り当てが予定されている2.5GHz帯の両脇は、現在、衛星通信で利用されている。周波数の低いほうは「ワイドスター」というものでNTTドコモが提供している。契約数は2万2000程度。自治体や企業のバックアップ目的に使われるものだが、この免許の有効期間は2007年10月27日までだ。また、周波数の高い側には衛星テレビの1種「モバHO!」がある。契約数は非公開だが、受信に専用カードが必要で視聴は有料、コンテンツのラインアップも特に広くない。視聴者数は微々たるものではないかというのが業界関係者の推測だ。モバHO!の免許の有効期間は2008年10月31日まで。 経済原理に従うなら、これら2つの周波数帯を再々編で高速無線通信サービスに割り当てるほうが合理的だ。もし再々編が現実的なオプションであるのなら、NTTドコモやKDDIが新規参入機会を逃しても、他事業者が市場開拓をしている様子を学習してから、遅れて参入するという選択肢もあるだろうというのが、新保氏の見立てだ。当初は次世代PHSとWiMAXの2本立てでスタートし、その後にNTTドコモ陣営とKDDI陣営のWiMAXサービス事業者に追加バンドを割り当てるというシナリオだ。 BWAの免許割り当てが、関係者による事前調整型、あるいは規制当局による恣意的な審査に依存していることに対して批判もある。一方でWiMAXフォーラムで日本オフィスの代表を務める齋藤忠夫氏のように、むしろオークション方式などによらない免許交付方式は、WiMAXの普及にとって重要なバックグランドだとする意見もある。いずれの意見が妥当かは分からないが、この秋に出てくる総務省の結論が、将来に禍根を残さないものであることを願う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007年09月04日 14時29分04秒
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