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カテゴリ:楽園に吼える豹
レオンは凍り付いていた。
いや、頭の中はやけに冴えていた。だが体が言うことをきかない。 この女の唇が「動かないで」という言葉をつむいだ瞬間から、レオンの体は指一本動かなくなった。 (暗示か? この女、俺に何をした?) 柄にもなく冷や汗が背中を伝うのが分かった。 ようやくレオンも気付き始めた。 隣に座るこの美女が、死んだとされていたアドバンスト・チルドレンの生き残りであるということに。 レオンをこんな不可解な状況に陥れられるのは、彼同様通常の人間が持ち合わせることのできない能力を持った者だけだ。 (この女が俺たちのように人外の能力を持ってるとして―――そのからくりはいったい何だっていうんだ?) 彼女は「動くな」と声に出して命令したわけではない。 唇を動かしただけだ。 いくらなんでもそれだけで人一人を拘束できるはずがない。 (声なんて何も聞こえなかった。それとも何か他に―――?) 女―――リズは勝ち誇ったような笑みを浮かべてレオンを見つめていた。 そして呪いの言葉を―――声には出さず―――紡ぎ出す。 『誰 デ モ イ イ』 (待て、“聞こえなかった”―――!? そうだ、聞こえなかったからといって何も言ってないとは限らない!! きっとこいつの喉は、特殊な音波か何かを―――) 突然、脳の思考回路の働きが鈍くなる。 リズの唇の動きが読めない。 (“主人(マスター)”を手にかけたGSの記憶がないのは、この音波のせい…か……) 『コ コ カ ラ 出 テ 最 初 ニ 会 ッ タ 人 間 ヲ』 暗示の効力が本格的に出始めたのか、ものをまともに考えることすら困難になってきた。 犯罪を犯したGSたちを陥れたおおよその仕掛けが分かったというのに、今度は自分がこのザマだ。レオンは嗤(わら)いたくなった。 しかし絶望はしていなかった。 (俺を陥れてそれで終わりだと思ってんなら、まだこっちの負けじゃねえ。まだ―――) 『殺 シ ナ サ』 その時だった。 「!? 何なの!?」 けたたましい非常ベルの音が、静寂を破った。 その直後、シャッターが閉まるような音が続く。 瞬間、体の自由が戻ってきた。 もともと言うことをきかない体を無理矢理動かそうと力を入れていたためか、勢い余ってレオンはバランスを崩し、床に倒れこんだ。 リズはその隙を逃さず、エグゼクティブルームから飛び出した。レオンもその後を追う。 が、数秒のロスは想像以上に響いた。 非常口まで出てみたが、リズの姿は影も形もなかったのだ。 「逃げ足の早い女だな……」 女にしてやられたのはこれが初めてかもしれないな、とレオンは思った。 しかし、生け捕りにすることは最初から努力目標に過ぎない。 レオンの至上命題は、一連のGSの犯罪が誰かに仕組まれたものだということを証明することだ。 「―――だから、こいつさえいれば十分なんだよね…」 レオンは数メートル引き返し、防火シャッターに挟まれ身動きが取れなくなっているイルファンを、冷たく見下ろした。 「―――ああ、わかった。つまり失敗したんだな?」 電話口の向こうから、怯えたような、それでいて懇願するような口調でリズが言い訳をする。 だがそれを銀髪の男は一蹴した。 「イルファンのことはこちらで何とかしよう。お前はこっちへ戻ってくるんだ」 それだけ言って電話を切った。 冷たい声だった。 それでもリーゼマンは怒ったわけではなかった。 イルファンたちがヘマをしようと、そんなことはどうでもよかった。 ただ、自分に害が及ぶのだけは避けなければならない。自分にはまだやることがある。 カツカツと薄暗い部屋に足音を響かせながら、彼は隅のほうにある機械へと近づいていく。 それにはボタンが三つ並んでいた。それぞれにプレートがついている。 左からゲオルグ・シュバイツァー、リズ・ターナー、そして……イルファン・アンドロポフ。 リーゼマンは何のためらいもなく、イルファンの名が書かれた一番右のボタンを押した。 つづく 人気ブログランキングに参加しました。 よろしければクリックお願いします♪(*^▽^*) ↓ 結局また間があいてしまいました(;-ω-A 申し訳ございません・・・ 次回は過激なレオンが見れると思います。 どうぞお楽しみに(?) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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