メルセデスのコンパクトカーマーケティング
先日、日本自動車輸入組合が発表した2015年上半期ブランド別国内販売台数で、メルセデス・ベンツがVW(フォルクス・ワーゲン)を抜いて16年ぶりに首位になったと話題になりました。前年同期比の伸び率は19.1%となり、3万2,680台の販売。二位のVWは△16.5%減の2万9,666台。記事では「株高などを背景に1千万円以上のSクラスなど高級車の販売も伸びた」とありましたが、やはり台数を押し上げたのはCクラスの新型車やコンパクトなカジュアルラインなのではないでしょうか。うちのマネージャーのS氏も今年になってVWからメルセデスに乗り換えた一人なのですが、彼の事情は典型的な消費者の行動変化を示しているように感じます。いわく、 ・子供が高学年になり野球をやめた。 ・7人が乗れるVW Sharanというワゴンに乗っていたがその必要がなくなった。 ・子供が大きくなるにつれ家財道具が増える一方、家屋はそこまでスペースに余裕がないためガレージの一部を物置にしたかった。 ・車長が短い車であればこれが実現できるため、メルセデスのGLAに買い換えた。すごくラグジュアリーな意図をもってメルセデスに乗換えたわけではないのですね。リーズナブルな生活感があり、経済的な制約のある中で、選択肢としてメルセデスが入ってくる。これは一昔前には考えられなかったカタチなのではないでしょうか。短い車が良いならVWのGolfにすればいいじゃないという意見もあると思いますが(笑)、よりステップアップ感のあるメルセデスのGLAがGolfの価格帯と被る351万円から手に入るというところがポイントなのだと思います。実際、ダイムラーが発表している昨年のメルセデス・ベンツの世界販売台数は、過去最高の165万10台、前年比+12.9%の伸長となっています。そのうち46万3,152台、前年比+24.7%という実績をたたき出したのは、A、B、CLAとGLAクラスといういわゆるコンパクトカーセグメントでした。好調を受け今年の春からCLA Shooting Brakeという新ラインも追加されるなど、積極的にこのセグメントの強化が行なわれています。高級なイメージをもつブランドがカジュアルラインを打ち出すのには、戦略的な慎重さが必要です。Sクラスやマイバッハといったハイ・エンドのラインも併せて革新的な取り組みを続けることでイメージの毀損を防ぐなど、メルセデス・ベンツは非常に巧みな手法でこのマーケティングをやりぬきつつあるように思います。他業種の企業にとっても大変参考になるケースだと思います。中村晃一