『平成最後のフラシュバック』
.やっぱり、僕の場合は、嘉浩君や亨君の目指していた世界とその危険なアプローチ、その眼差しが、自分の生身の眼底に被り、フラッシュバックしてくる。.その精神世界は、今ではどこか異国の情景を思わせるけれども、ひとつの世界観として層をなしており、僕は度々この世界にダイブして見落としてきたものはなかったのかと探るのだ。そして限界を感じると、こちらの世界に戻ってくる。.僕一人別の精神体となり、その世界では僕の存在に気づかないかつての信者たちが、せっせと世の終末に向けて準備をしている…自分たちがどこに向かってしまうのか気づかないまま。僕は、たとえそれを見る心の準備がないとしても、2~3メートル上空で見せつけられてしまっているような…そんな世界.僕は何かガラス越しにその光景を見ているような錯覚があり、嘉浩君や他の幹部の人たちの行動を見つめる。そこに、教祖が訪れ、何やら叱責と喝を入れながら幹部連中を操作している、そんな光景だ。.彼は、いつもびくついている…背筋を伸ばし、ハキハキと応える姿は勇敢な若者というよりも、得体のしれない使命に自分の心をねじ伏せながら同調させようとする幼い姿だった。彼は、その後彼自身の瞑想によって、この不条理な世界観を苦い汁を飲み干すようにして、骨髄に落とし込んでいく。.サンジャヤ、ウパーリ、ミラレパ、ヴァジラパーニなどが、ドア越しに訪れては消えてゆく、奥に気になる人の気配があり、マンジュシュリーであることを知る。.彼等全員、逸脱者…という点で同志なのだろう。次第にこれが現実なのだと、彼らは落とし込んゆく。わずか数十人の先鋭のヴァジラヤーナ戦士という自覚を植え込まれ、彼らは、救済と認識しながらにして、世を終わらせようと行動に移そうとするのだ。.実に生々しい光景は、なんだろう…これはもしかして、見たこともない、八王子アジトの光景だったのだろうか….所詮幻影にすぎぬただ、ひっかるのだ。.彼等には、確信がない…こんな恐ろしい事をしようとしているのに、真に自分たちの行いの果てに事態がどう展開するのかを立ち止まって考えようとはしていない様子だ。.みな己の使命としながら、何か強力な呪縛の中に完全に嵌り、操られている事に気づけていない…そうこうしていると、メンバーの一人、ミラレパが、何かの霊感を働かせたのか、こうつぶやく。「今、誰かに見られている…」他のメンバーが、それに応える。「…誰、尊師?」「いや、違う」「…何かの変化身だろうが、敵か味方さえも分からない…」「もう、ここを出たほうがいい…今すぐにでも」.僕は、自分が察知された事に気づき、気配を更に消し、位置を変えた。そして、消えた。.こうした不思議な精神世界を通じ、こちらに戻ってくると、もう既に死んでしまっているはずの彼等の霊魂の強さに、妙な感覚を感じるのだ。これは過去であり、別世界…もしかしたらもうひとつのパラレルワールドなのだろうか….そういえば、第六にいたときも、何度か、室内が若干暗くなるような錯覚に襲われていたことを思い出した。あの頃、僕も何かの気配を感じた。そして、妙なデジャブが訪れていたことも.誰かに見られていたのではないだろうか…未来の誰かに….あの、PSIのイニシエーションを受けていた頃だ…僕は何か妙に胸騒ぎを感じてならなかったが、精神を安定させたかった。この異様な世界に飛び込んでしまった自分を果てしなく呪いたくなる気持ちを精一杯抑えながら、まさに、宗教的生活に全霊を注ぐしかないと決意してゆく….本当はここで教団の決意如意促とかを聞くべきなんだろうけれども、僕はその時、持ってきてはいけない音楽のテープをウォークマンに入れ、心を落ち着かせようとしていた。.グレゴリオ聖歌だ...Eili ...