カテゴリ:戯言
先日、友人から「マニュアル車を四年ほど運転しないでいたら坂道発進ができなくなってたよどうしよう」と相談を受けた。思わず笑ってしまった。ちょwwww 坂道発進ができないってお前どんだけですかwwww という感じで笑ってしまった。『wwww』がポイントである。ナウい。坂道発進などは基本中の基本であり、できてあたりまえの事である。私は「あなたはそれでも走り屋ですか!」などと友人を叱責して「いや、走り屋じゃないから」などと反論されつつ、友人の車に乗り込み、助手席に友人を乗せ、手近な坂道へと車を走らせた。 実は私もマニュアル車はもう二年ほど運転していなかったのだが、坂道発進などは基本中の基本であるからして、楽勝である。ギターを弾きながらでもできる。ベースを弾きながらでもできる。ドラムを叩きながらでもできる。キックボクシングをしながらでもできる。あんなもんはできない方がおかしいのだ。バカか。アホか。いっぺん死んでみてはどうか。たとえ四年ほどマニュアル車を運転していなかったとはいえ、クラッチをつなぐ感覚とかは体が覚えているはずだと思うのだが。まさかそれを忘れてしまうとは。友人の無能ぶりには私も失笑とか嘲笑とか冷笑とかを禁じえない。まあ、『wwww』というやつだ。ナウい。 「私の華麗なる坂道発進をその目に焼き付けるが良いよ」 「はようやってみせろ」 「はいはい。わっかりましたよー」 「さあ、やれ」 「アクセルあおってクラッチつないでサイドをおろすだけー。簡単じゃない」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 最初の『ぶおんぶおん』がエンジンの唸る音。『ずるずるずるっ』が車が坂道をずり落ちる音。そして、『がたがたがたがたっ』と車が揺れて『ぴーぴーぴー』とエンスト。 「どうした」 「いや、ええと、あれ……?」 「基本中の基本とか言ってたのはなんだったのかなー?」 「い、今のはウォーミングアップだから!」 「本当にできんの?」 「まっかせといて!」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「できてねえじゃん」 「あれ? おっかしいなあ。もう一回!」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「……で?」 「いや、やればできるんだって!」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「まさかっ、こんなはずでは!」 「できないならできないと言え」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「なんでだよおい!?」 「いや、もういいよ」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「こ、この車が悪いのよ! パワーがないから!」 「軽自動車なんだから、パワーなんかなくてあたりまえだろ」 「だったら、アクセルをもっと踏み込めば!」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「むがー!」 「あきらめろ」 「ネバーギブアーップ!」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「この坂道を越えて私は伝説になるぅ!」 「どうでもいいけど、車壊すなよ」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「い、いや、この坂道は急だし、こんな坂道は豆腐屋の息子でもちょっと難しいって!」 「できないんだな?」 「もうちょっとゆるやかな坂道へ行こう! ゆるやかなる坂道へ!」 「できないんだな?」 「できるできる! 楽勝だって! ほら!」 ぶおんぶおん。ずるずるずるっ。がたがたがたがたっ。ぴーぴーぴー。 「なるほど。楽勝でずり落ちて、楽勝でエンストできる、と」 「いや、今日はちょっと体調が悪いから!」 「つまり、できないんだな?」 「ああっ、大変よ! なんだかとってもお腹が痛いわ! 今日はもう帰りましょう!」 「できないんだな?」 「うわあ痛い! 死ぬ死ぬ死ぬ! マジで痛いって!」 「できないんだな?」 坂道なんか、なければいいのにね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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