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おばさんが作った死語ブログ。人生いろいろに語ります。

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August 26, 2002
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カテゴリ:カテゴリ未分類
 ここ10日ばかり、会社員時代の夢ばかり見るので、いやだな・・・と思っていて、今日ようやくその理由がわかった。
 4年前のこの月末日付けで、約17年勤めた会社を辞めたのだった。おばさんの中の潜在意識が、自ずと記憶をむくむくと蘇らせ、夢となって、おばさんへアピールしてきたのだろう。・・・・哀しい記憶の日。

 私はその日、いつも通りに出勤し、いつも通りに製造現場で未だ慣れない、結局慣れる事もなかった組み付け作業を終えようとしていた。周りの皆は、特別声を掛けるでなく、といって気を使っているでなく、やはり同じようにいつも通りに作業をしていた。
 夏のボーナス支給から盆休みにかけてのこの頃は、計画退職のピークでもある。新卒者が5月病と呼ばれる頃、辞めるのに比べ、そうでない者たちはこの頃か、あるいは冬のボーナスが支給された頃、つまり年末に辞める事が多い。
 そんな中の一人に自分も入ろうとは、思ってもみなかった。
 
 やがて定時が近づく。一分でも早く帰りたいオバチャン作業者は既に掃除を終えて、ロッカー室を出たり入ったりしている。それに比べ、パートさん達は時間ぎりぎりまで働く。そんな光景も今日で見納めだ。
 作業場の掃除を始める。別段念入りにやろうという気は起こらない。明日になればまた違う作業者が私よりも上手な手つきで製品を作る。不良品をひとつでも作れば、多ければ多いほど、その作業者は職場で肩身の狭い思いをする。製品を沢山作り、不良品を作らない。これが出来さえすれば、製造現場はやっていけるんだろう。ちゃんちゃらおかしい。逃げるが勝ちだ。やってらんない。爪が割れ、夏は暑さで意識が朦朧とし、冬はぬれ雑巾が凍る畳半畳程の作業場の範囲から、休憩以外出られない仕事なんて、私には合わない。
 そんな身勝手な気持ちは、自分の意志でその職場に入ったのではないという恨みの裏返しでもあった。

 背後に人の気配がする。振り返るとT子が遠慮がちに立っていた。「あぁ、アンタも今日までだったね。」私がそう聞くと彼女はうなずいた。
 彼女も私と同じく今月末の退社組だ。彼女は今までお世話になった御礼を私に述べる。「いいんだよ、そんなお礼なんか。もうこんなになったら、事務所にいた頃のことなんか、どうでもいいんだよ。」吐き捨てるような言い方に彼女はそれが自分への悪意からではなく、私自身のこの左遷の情況から言っているのだと気付いている。仕事はさして出来る子じゃなかったけど、人の言葉には敏感な、それを相手への優しさに変えようと努力する優しい子だった。
 彼女の表情がありありと私への同情に変わっていくのを、私はそれ以上見たくなかった。
 「ありがとね、わざわざ来てくれて。嬉しいよ。私の事、思い出してくれて。」
 深々と頭を下げる彼女に私もさよならの言葉を贈る。「今のアタシより今のアンタの方がずっと可能性が多いんだから、めげずに頑張るんだよ。いい事あるから、きっと。」
 彼女はわがままな上司に翻弄され、衝突し、おまけに社内恋愛もダメになりやめる決心をしたらしい。そんな話、事務員の頃は胸躍らせて聞いたものだが、左遷されてからは、どっかの呑気な世界のお話のように聞いていた。今更ながらに、彼女に同情する。きっといいことあるよ。女なんて、別の恋すりゃ生き返るってもんだ。

 軍手をたたみ、作業用具の箱にしまおうとして、ふと気付く。心で一本何かが切れる。頭の血管に太く血が流れ込むような気がする。今たたんだばかりのその軍手を、わざとクシャクシャにしてゴミ箱に力一杯叩き込む。今の私にはこれくらいの主張しか出来ない。情けない。哀しいよ。
 
 ロッカー室に入ろうとした時、現場の通路のその突き当たりに事務所への入り口がある。それをまじまじと見る。左遷が決まって以来、事務所へ入る事は一切しなかった。こんな作業者の格好で「すみません、ダーマトください。」などと事務員にお願いする姿をさらせるものか。
 事務所の人間は、今日この日、私が辞めると言う事を知っているんだろうか。いや、知らないはずはない。だったら何故、一人として、「ごくろうさまでした。」を言いに来ないのだ。「今日までありがとう。」と労わりに来ないのだ。もしかしたら、辞める人は挨拶に回るのが常例なのだろうか。T子みたいに。いや、そんなことはしたくない。出来るものか。ふざけてやがる。どいつもこいつも馬鹿にしやがって。
 事務所の扉を憎憎しく見つめる。
 さぁ、帰ろう。もう、やめ、よう。

 着替えて足早に会社の通用門を出る。駐車場まで数メートル。そこへたどり着き、車に乗り、家路に付けばもう入る事のない会社。次に入る事があってももうここの社員ではない。誰かに会うだろうか、そしたらどうしよう、何か言うべきだろうか。・・・誰もいない。人気もまばらな駐車場。後ろ髪が思い切り引っ張られる。それがわかったかのように夏の夕暮れを告げる山の風が頬をなでる。その風につられて、会社を今一度返り見る。

 この会社に、私は青春も恋愛もそして女も、みんな預けて仕事をした。今はこんな苦々しい想いばかりだが、いつか、冷静に思い出す事もあるだろうか。
 定年まで働くつもりでいた会社に、捨てられた女。「土砂降りの雨の中を惚れぬいた男に簡単に捨てられ、泣きじゃくる女」よりは、少しはカッコイイだろうか。
 

 その時見た会社の佇まいは、今でもしっかりおばさんの目に焼き付いている。そしてその日の心の葛藤も、しっかり心に焼き付いている。
 おばさんの潜在意識よ、いつになったらこの呪縛から解放してくれるんだい?







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Last updated  August 26, 2002 08:22:13 PM
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