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おばさんが作った死語ブログ。人生いろいろに語ります。

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September 15, 2002
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カテゴリ:カテゴリ未分類
 車の後部座席。なんと言うこともない、いつものこと。配偶者は運転しながら、しゃべっている。なんとなく耳に入るから相槌を打つ。幼児たちはチャイルドシートに拘束され自由が利かない。でもお口だけ自由に動いて、父親や母親に自分へ気を引こうと、とりとめもなく話しかけ、あるいは一人でしゃべっている。
 自分の生まれた町を後部座席から眺める。車は軽快に走る。空は秋空。明日は雨だと言っていたっけ・・・。

 ふと道沿いの家並みを見つめる。その一軒の中に、懐かしい見覚えのある後姿を見つける。
 ・・・あぁ、そういえばこの辺に家を建てたと風の便りで聞いたっけ・・・その懐かしい後姿はおばさんの初恋の人であった。もう数十年前の思い。ただ懐かしいだけの感情。
 かつての意中の人に出会うのは、その土地に生まれ、育ち、暮らしていけばさほど珍しい事ではない。女性は多くの場合、嫁いでしまうから出会う確率が少ないだけで、おばさんのように故郷で暮らし、いずれ老いを迎える女性はむしろ、こんな事は日常茶飯事である。かえって、年老いた、あるいは年老いていく普段の自分と、若かった頃の輝きに満ち満ちた自分を両方知っている同級生、あるいはかつての恋人と、いかに上手に付き合うかが問題なのである。
 自分たちの子供が偶然にも同級生になろうものなら、何かにつけ顔を合わせる事もあるし、商売をしていれば町の商工会で、あるいは町をあげての体育祭に、色の違う襷を互いに掛け、母校である中学校のグランドで、かつての恋人とあるいは恋敵とあるいは勉強のライバルと、地区別競争や二人三脚で争ったりするのである。
 人生は本来、可笑しいものなのかもしれない。可笑しくって可笑しくって、悔しくって哀しくって涙しながら笑っちゃうものなのかもしれない。

 彼は当時流行っていた「一番星シリーズ」にかぶれていた。父親が長距離の運転手をしていたせいもあるのか、「俺もあんなトラックに乗って日本中を走る。」と言って、下敷きに「男一匹、一番星」みたいな文句をかっこ良く飾って落書きしていた。自分と主人公扮する菅原文太は一心同体である様に思っていたのだろう。彼は情が厚く、涙もろく、女性に優しい正義感溢れる男の子だった。

 そんな彼が今、後姿ではあるが、自宅前で行っている事は、自宅前のかなり広いスペースの隅にある、しっかりした鉄骨の車庫内でズシンと止まった大型トラック2台を洗車している。というか、洗車も一段落終え、拭き終わったところ・・・といった段階か?じっと自分のトラックを見つめて立っている。そのウエストは当時より倍とは言わないが太くなっているようだ。しかし、背の高さがそのたるみをカバーしている。髪は相変わらず短い。おそらく例の文太カットだろう。短めの髪の向こう側には少しヤンキー風の眼鏡を掛けているかも知れない。後姿だから顔は見えない。そう、顔が見えないからこそ、こうしてじっと見つめていられるのである。彼がこちらを見ていたら向いていたら、きっと顔をそむけ目線をそらし、何気ない顔で子供とおしゃべりしていただろう。
 
 置かれた二台のトラックは、一番星シリーズほど煌びやかな装飾は施してはいなかったけれど、きれいに、ほんとにきれいに磨かれ、彼の夢と希望が現実となってそこにあったような気がした。
 どこの家庭にも悩みや不平・不満、仲たがいや喧嘩はある。けれどもそれらさえも「これが平凡な幸せだよ」と片付けてしまうとしたら、彼は見る限り、一生懸命家族を守り、自分を守り続けているように感じる。人の幸せ振りを見て、喜ぶタイプの人間ではないが、そんな彼を見て「良かった・・・」と少し嬉しく思えるのは、それだけ今の自分も少し幸せなんだろう。
 
 配偶者はさしかかったカーブを軽快に曲がり、愛車を走らせ続ける。その緩やかな遠心力で、あの頃から随分と年取ったおばさんの体はやや傾く。傾いた体を元に戻すと視界が変わり、次の家並みが目に入る。
 「おかーさん、何笑ってるの?」
 「・・・別に笑ってなんかないよ。」
 「だって、今笑ってたような顔だったよ。」
 「・・・ふ~ん、そうだったっけ・・・。」おばさんは子供に微笑み返しをする。
 
 空は秋空。おばさんの愛車は家族を乗せて軽快に走り続ける。明日は雨って言ってたっけ・・・・・





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Last updated  September 16, 2002 03:46:37 PM
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