【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

おばさんが作った死語ブログ。人生いろいろに語ります。

おばさんが作った死語ブログ。人生いろいろに語ります。

Freepage List

November 21, 2002
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類
・・・お手数ですが、前編からお読み下さい。

 さすがの私もこの言葉には蒼ざめた。・・・コイツ、この手で常習やな・・・瞬間悟った私は計算し出す。自宅付近まであとどれ位か、それまでどうやって間を持たせるか・・・こういう場合、じっと押し黙っていてはこちらの不利になる。満員電車の痴漢は、じっと耐え続ける被害者に一層の欲情をかきたてられる。それと同じ。但し、ここは車内。ハンドルは運転手が握っている。私の命を握っているのと同じ。髪振りみだし暴れようものなら車外へポイッと捨てられる・・・・
 自宅付近へはおよそ15分だ。彼も私の反応を試している段階らしい。私の顔色をチラチラうかがっている。
 とにかくしゃべらなくちゃ・・・
 「な~にこんな宵の口からジョーダン言ってんじゃないわよ。オ・ジ・サ・ン。」
 「ホントは家に帰りゃ、素敵な奥様が三つ指ついてお出迎えなんじゃないのぉ?」
 「男の人って、これだからいやんなっちゃうわよねぇ。み~んなおんなじこと言って女の子騙してんだからぁ、あっはっはっは。」
・・・どうせ、ケツの軽い女に見られてんだろう。だったら余計に悪びれてやる。
 「え?オジサン、お幾つなの?へ~意外とお若いのねぇ?」
 「この仕事長いの?た~いへんよねぇ。」
 ・・・なるべく時間をもたせる。ウダウダした世間話へ話を反らせる。少なくとも車は目的地に向って進んでいるのだ。それだけが私を励ました。
 私はかなり緊張している。もう少しだ、あと10分、降車してからつけられても困るしな・・・どこで降りよう。人気のないところで降りても逆に危ない。とにかく、逃げ場のある自宅付近を・・・。
 「だからさぁ、この辺知ってるんでしょ?どっかに寄って行こうよ。」口元からよだれでも垂らしていそうなネチャツイタしゃべり方だ。
 「や~ね~。あたしゃそんな気ありませ~ん。」
 「昼はOLやってる普通の女の子で~す。」
 「なんかクーラーきき過ぎじゃない?」
 「タクシーって楽チンよねぇ・・・」
もう少し、あと少しで自宅の近くの・・・。
 「だからぁ、オジサンが気持ちいい事してあげるから・・・」
 「見た目よりきっと『男』知らないでしょ?僕の勘だよ・・」
彼のしゃべる内容がどんどんエスカレートしているのがわかる。既に彼の頭の中では事が行われているんだろう。あるいはそうやって卑猥な言葉を並べ立てて私がその気になるのを待ち構えているのかもしれない。・・・・やめてくれ。言葉で私を犯すのは。
 だんだん悲しくなってくる。横を向き、深い溜息をつく。国道を一本道。見慣れた家並みが現れている。もう少し、あと少しだ。泣くな、泣いちゃいけない。

 「あ、運転手さん。その信号の手前の脇道左ね。」
 「えっと、そこまっすぐ。」
 「そこは一旦停止だよ。」
急に私は進路を詳しく説明しだす。が、なるべく、突然に指示する。わがままな道案内に彼は急ハンドルをしながら、運転に集中しているらしい。口説く事より言われた道を忠実に運転しようとするところはおそらく職業がらそうなるのだろう。

 「止まって。」
 「ありがと。ここで降りる。」
 「ボールペン貸して。」
 私は何度も練習したはずの社長の模倣サインを勢い良く殴り書きし手渡した後、さっさと降りる。ドアも既に開いている。
 「じゃぁね、運転手さん。あんまり変な口説き方すると捕まるわよ。」
 運転手は無言である・・・彼はどうもこうも言えるはずもない。
 「あたし、あそこの、娘なの。」
 「バイバ~イ。」
 私は前方の小さな建物に向って歩き出す。丸い、赤い電灯が間口の広い入り口を照らしていた。・・・駐在所。田舎の駐在所は住宅が一緒になっている。気のいい40代の駐在さんが今頃狭い住宅の居間で奥さんと一緒にテレビでも見ているだろうか・・・。

 タクシーのドアが閉まり、何事もなく走り出す。私は背を向け歩きながら、バックからコンパクトを出す。そして、その鏡でタクシーが国道に出てやがて走り去るのを見届けてから、一目散に走り出す。その駐在所を通り抜け、自宅へダッシュする。途中、涙がこぼれそうになる。・・・・ちくしょう、軽く見やがって。好きでこんな格好してんじゃないやぃ・・・・。でも泣かないぞ。無事だったんだから。よくやったぞ、よくやった!

 涙をゴックン飲み込んで玄関を開ける。
 母が突然暗闇の家の中から出て来る。
 「どうしたの?もう寝とるかと思った。」潤む目を隠しながら明るく母に話し掛ける。
 「いや、別に、どぉってことないけど・・・・なんか今晩はアンタの帰りが心配になって、待っとった。」
 我慢した涙がまた吹き出そうになるが、やっぱりこらえる。
 「へぇ~そぉ。大丈夫だよ。無事に帰って来たよ。」
 笑って答えているつもり・・・。
 「今日もタクシーで帰って来たの?」母が聞く。
 うん、と頷く私に心配そうにまた尋ねる。
 「タクシー代も馬鹿にならんでしょ?お金持っとるの?」
 私は、ふふふとほくそ笑む。
 「ダイジョーブィ!ちゃんと貯めてますよ~ん。」

・・・・偽サイン、会社の金の私的流用、罪目で並べればなかりの数になるだろう。けれどもそれを当然のように思い、全て「会社のため」と称しバブルという目に見えない波に乗ってサーファー気取りだった当時の私達。しっぺ返しはその後それなりに受けたけれど、今にして思えば、夢の中で見た夢・・・。

 その問題のタクシードライバーにはその後お目にかかっていないが、タクシーにはその後二度と一人で乗らない事にしている。

 おばさんの持つタクシードライバーのイメージは中島みゆきの「タクシードライバー」であった。名曲である。
 それを無残に壊した彼の名は・・・・今でもしっかり覚えている。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  November 21, 2002 03:39:39 PM
コメント(0) | コメントを書く


PR

Profile

153

153

Comments

コメントに書き込みはありません。

© Rakuten Group, Inc.