月
満月の夜に。発表会前日は中秋の名月。寝る前に空を見上げたら、ちょうど雲の切れ間から月が顔をのぞかせた。ムーン・パワーをもらって、目に焼き付けた。当日は、あいにくの雷雨。あまりの風音と雷音と少しの緊張から、よくは眠れなかった。ついでに頭痛と、若干背中がしびれている。でも自分に言い聞かせた。(年明けから弾いてるよ。)(舞台で弾くのは3回目だよ。)(何より、大切な人が聴きにきてくれるんだよ。)前夜の月を頭に浮かべた。本番、笑顔で舞台に立ち礼をした。もうここは一人の世界・・・。スポットライトを浴びてピアノの前に佇む私・・・。一つ大きな深呼吸。はぁ。楽譜の一段目を弾いた。弾き終えた時点で、(出だし上手くいった!)と高揚した。出だしが成功すれば、もうこっちのもの。多少の音のミスなどはあったけど、冷静に落ち着いて弾けたように思う。何よりも、今日は一番聴かせたい人がそこに、いる。ラストスパートをかけ、決めの最終音。8分ほどの演奏を終えた。すると、先生が誰よりも早くに一発目の拍手をしてくれた。(あ、成功したんだ。)一瞬にして、今回の評価を耳で感じた。(ありがとう、ピアノ。)(ありがとう、先生。)(ありがとう、大切な人。)(ありがとう、尚。)地道な練習が実を結ぶ瞬間。本番を迎えるまでには、くじけそうになった日もあった。出番を待っている時のあのざわめきは何度体験しても慣れることはない。むしろ、舞台に立てば立つほど怖くなる。だけど、本番を終えた時のあの爽快感を味わうと、もうやみつきになって辞めることなんてできない。帰り道、空にはまんまるの黄金色の月が光輝いていた。二度目のムーン・パワー。「がんばったね。」お疲れさまのご褒美をもらった。9/23 pm22:16 尚