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ところで、私自身は自分のことを音痴だと思っている。いや、少し語弊があるか。ピアノを専門に学んだ身であるが故、渋々ながらも必須であった声楽のレッスンも受けていた。幼い頃は合唱団に入って活動したりもしていたし、多少は技術はある。が、ピアノの方が歌よりも100倍好きだったということと、私の体はひょろりとゴボウのように窶れていたので、思うような声は出せないことが子どもながらに心に引っかかっていた。歌を歌う人は自分の体が楽器となる。男女問わず、でっぷり肥えていわゆる寸胴でくびれのない丸太ん棒のような体型が望ましい。共鳴して大きな声も出るし、なんと言っても舞台映えする。私の体型はそれとはかけ離れ過ぎていた。要するに歌は苦手とまでは言わなくとも、決して得意ではなかったのである。ピアノが大好きだった。小さな子どもは自分の得意なことが好きになるものである。で、長い前置きはそろそろ終わりにして、なぜ自分を音痴と思うかと言うと、それは私の耳が相対音感を持っているから。ひとたびカラオケへ行けば99点を出したり、金を取れるぞ!と褒めてもらったりしたこともあったのだけど、私の耳には自分の声がどうがんばってみてもドレミでは聞こえてこない。先に書いたように、人の声というものは非常に曖昧で脆く定まりにくいものであり、声量もなく、半音の半音のような音ばかり出す自分が気に食わなくて仕方なかった。そもそも歌は得意ではないという意識を潜在的に持っていたことも影響してか、いつしかそんな自分の声を私の耳は音痴だと錯覚するようになってしまったのであった。調律さえきちんとしてありさえすれば絶対に音痴にはならないピアノの方が私の耳には心地良かった。ただそれだけのことである。