落ちぶれた歌手の行く末
歌番組なんてもう10年以上見ていないけれど、先日ふっとある歌手が歌っているのを目にした。同世代のベテラン歌手、邦楽の。紅白の常連で私でもよく知っている。当時、知らない人はいないほど売れに売れたと思う。私の記憶には、もちろんあの絶頂期の光輝いていた頃の姿のまま残っていた。えー、申し訳ないが、10年ぶりに聞き、あまりの落ちぶれように亜然としてしまった。歌い方が変わっているけど歳を重ねて味が出てきたな、以前ほどの声の伸びはないけれどそれも深みだな、あれだけ軽快にはっきりと言葉をしゃべっていたのにだんだん舌が回らなくなってきてもったりしているのも仕方ないな、とはならなかった。これは本音。聴き手は、いくつになっても当時の若さ溢れる溌剌とした歌いっぷりを求めているように思う。かわいそうに。昔はあれだけ優雅に歌っていたのに。こんなにも色褪せてしまって。今は高い声が出なくなっているから必死になってがなっているけど、さっぱり声が出ていない自分に焦ってしまい、余計に喉が閉まって音程も外れて苦しい声になっている。私だって同じように年老いた訳だから同情するよ、とはならない。悲しいかな、もう潮時だなと感じざるを得なかった。それでも歌い続けないといけない残酷さ。と考えると、老いをまったく感じさせないオペラ歌手や演歌歌手ってプロ中のプロだなと改めて尊敬するのであった。格が違うのである。