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おいろーぱ野郎

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2004.11.20
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カテゴリ:das Thema
一週間安静にした後、再び尋ねた近所の診療所は水浸しだった。階段を上がると灯りの消えた室内に憔悴したスタッフがひっそりと佇んでいた。
「これで2回目なんですよ、ベッドもコンピュータも受付の機械も全て水浸しで会計も出来ません。」という先生の足元には、天井を構成するアスベストのような材質のおよそ50cm角位の薄板がフロアで砕け散り水遊びをしている。理由は定かではないが建物内部の給水用タンクに突然穴が空き、直下の診療所スペースを水の奔流が直撃したらしい。

「前回の後、補修屋がちゃんとした作業をしてなかったんでしょうね。まあ特殊気候と考えとけばいいんでしょうけど。」と微笑む先生。日本人にしてはこの土地の流儀に馴染むのが早い。機器類全滅のため、レントゲンフィルムを確認する透過光がなく、室外の廊下窓ガラスにかざされる2枚のフィルム。曇空をバックに肺の器官がブラインドの縞模様と重なりアートのようにアレンジされる。診断なのか芸術か。
「左肺、凄く回復してるじゃないですかあ。」と上気する先生。
「でもこっちのフィルム裏返しじゃないですか。左右逆になってますよ。」
「そうですねえ。うーん、、やや回復傾向ですかこれは。」とうつむく。
何事にも寛容でないと医者も患者もやってられない。どの土地にも流儀があるのだ。

仕事中に突然高笑いしはじめたUK人同僚V。
「Momがいま自分の家に来ていて、お湯を沸かしていたんだけど、ケトルが爆発して、メインのヒューズが飛んで部屋中の電気製品が使えなくなったらしいんだ。わははは。そうなんだよ。Momは前からなんでも破壊しちまうんだよ。」
「なんでお湯沸かしてるケトルが爆発するわけ。」
「知らない。わははは。今日は早めに帰って電気屋でヒューズ探しだな。」
涙目のVは息も切れ切れに嬉しそうに笑う。ところでMomは大丈夫なのか。

スペイン料理屋で行われた昨夜の壮行会。硬いチョリソを口に放り込み、いまいちシャキっとしないアローシュをすする。UKなんだから仕方ない。餞別のスピーチをし、飲めないビールを飲んでると突然ドアが開き、3人の男たちが異音と共になだれ込んできた。
警察帽+女装+かつらの彼らは手に手にSaveChildrenなどと書かれた箱を携えている。開襟ジャケットから覗く地肌の胸元には、微妙な膨らみを形作るタオルが押し込まれている。店内のテーブルに絶叫と共に四散すると同時にくまなく小銭を徴収し、声高に謝意を述べ、飲食客の歓声と喝采を浴びながら、エセ婦警達は瞬く間に店を後にした。この間数分。次の犠牲は対面のイタリア料理屋か。それにしても何のための募金だったのか。考えてもわからないことが世の中には多い。

理不尽な驚きが身の回りで起きたとき、その状況をまず詳しく分析し、原因を把握し、影響範囲を想像し、とるべき態度を決める、という一連のプロセスに精度良く乗る。ドイツ人や日本人だとそれが一般的なリアクションだろう。おのずと表情は真面目かつ湿りがちに抑えられる。相手がある事ならば 失礼があってはいけないという意識が態度に表れる。そういう基本はある程度民度が高ければまずどこの国でも常識なのだが、アングロサクソンさんにはこれに"笑い"の要素が加わる。理由なんかどうでもよく、笑い飛ばすのが好きなのだろう。

各々のスピーチの狭間。煙草についての雑談をきっかけにGの名前がテーブルにのぼった。リメイク版Starsky and HutchのBen Stiller、いやスタスキーそっくりの南ア人同僚G。USに旅立った彼の壮行会からもうひと月が経つ。「来てくれてありがとう。すぐにでも家を引き払わなきゃいけないのに片付けが全然終わってなくて、明日もお別れパーティーで困ってるんだ。明後日にはUSで仕事をはじめなきゃいけないし。」と焦っていたのを思い出す。
同僚Rは13歳の頃はじめて煙草を喫おうとして、前髪を全部焼失したらしい。煙草はもういや、という彼女に 同僚Mがすかさず Gの事を知ってるか と 誰も返事をしてないのに嬉々として話しはじめる。

「屋内の片付けが終わり表に出たGは、生い茂る庭の雑草を急いで処理しなきゃと焦り、ガソリンに気付いた。茂みにざっと撒いたそれに直に火をつけるとさすがに燃えすぎると考えた奴は、茂みの中心部から離れたところまで導火線のように、ガソリンを点々とたらしながら引っ張り、自分の足元近くを基点に延焼させようと考えた。
足元の地面に首を傾げ、点けた火をつま先近くに落とすや否や、爆炎がGを包み、前髪はおろか、眉毛も睫毛も全て焼失した。顔面をやけどし、包帯でぐるぐる巻きにされ、その包帯を取るだけで病院から半日は抜け出せなかった。そんな姿でUSの新しいスタッフに自己紹介するか普通。」

金星人がタクシーを降りようとして転んだのを見つけた少年が先生への報告を待ちきれないかのように、ギラギラした満面の笑顔で夢中で語るM。お前、Gの元上司だろ。ちったあ同情しろよな。

他人の不幸は蜜の味。日本やドイツならお通夜ムードになるような話題でも、UK人は笑い飛ばして投げ捨ててしまう。この土地では"笑い"に>意地悪<という隠し味も加わるようだ。
あっけらかんとしたところはアングロサクソンの美徳だけど、ちょっと薄情だぜ。そりゃあ俺だってそういうのを好んで笑ってるけどさ、へへ。





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Last updated  2004.11.20 21:25:06
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