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おいろーぱ野郎

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2004.11.29
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カテゴリ:das Thema
近所の診療所から紹介されたプライベートの専門医で精密検査の予約を取った。ドアを開けると、20年落ちのスカーペッタのような油っ気の抜けた女医さんが、暗い冬空から漏れる薄い日の光を受け、小さなデスクの前に座っていた。
聴診器での肺機能確認のあと、柔らかい口調で診察のPointを説明してくれ、CTスキャンで詳細な原因調査を行った後に酵素による治癒を検討するため血液検査をするという。この間多目にみても15分。
同じ建物の、すっかりお馴染みになったX線室に行く。ご先祖は北欧又はゲルマン系だったかのように立派な体格の看護婦さんが、舞台裏の小奇麗な楽屋のような部屋ででんと待ち構えるCT台へと連行してくれる。機械自身はSIEMENS製なので少々安堵したが、スキャナーが目で追える速度で回っているさまは昔のUK特撮映画のようだ。実はハリボテかなと不安がよぎる。カエルの解剖のように寝そべり、覚悟を決める。過剰に被爆しませんように。
どの国でもそうだが、お膳立てを全て間に受けてはいけないのだ。その後、再度女医さんを訪ね、採血をし、結果相談の為の次回予約をした。

次回予約日、診療は大目に見て10分で終了した。
この間、風邪をこじらせたためか、今まで問題なかった右肺まで息苦しいことを説明する。高見山や小錦みたいに強烈に太った人が普通に話しててもゼーハー言ってるあんな感じだ。「CTの結果からは即 >突っ込んだ処置(=手術)< をしたほうがいいけど、右肺が変なら念のためもう一度X線を取りましょう」と先生はいつものように息漏れする口調で、か弱くおっしゃる。結局、問題は左のみという事で、抗生物質を処方してもらい、翌日>更に突っ込んだこと<が担当の専門医の待つ病院へと向った。

こういう凝ったレベルの診察は、歯科医を除き、南ドイツでは受けた事がない。せいぜい内科医、それも風邪の時くらいのものだ。従って、ドイツでの医療制度の特徴に関し肌で憶えたような知識は持ち合わせていない。強いて言えば、ドイツは医師が処方しない限り薬は薬局等で入手できないことくらいか。総合感冒薬の類のものが容易に手に入る日本とは明確な差がある。公式ドイツ暮らし直前に風邪を引きパブXンもどきを買おうとして薬局に行くと、どんなに頼んでも のど飴とうがい薬しか出してくれなかった。
UKは日本と同様、ちょっとした病気なら自分で治癒できるようバラエティ溢れる薬が薬局の棚を賑わしているので、日本人には親近感が湧くかもしれないが、そうともいえない。

ここUKの医療制度には、大枠で、パブリック医療とプライベートのそれが存在する。前者はNHSと称される国費による無料の診療体系に基づくが、ベッド数と看護婦数の不足など様々な面で社会問題化している。
パブリック医療の質に関し、いきつけの診療所のある日本人医師の言葉を借りれば、全体の9割の患者にとって最適な処置を行い、万一残り1割に不具合が出た時は金銭的補償で解決するというスタンスらしい。そのほうが全体の効率改善ができるためだそうだ。つまり患者の各々にマッチするようきめ細かい処方を行う日本のようなシステムではない。逆にいうと、患者数に対し限りある現場スタッフには最大公約数的な作業指導しか行えないのだろう。

プライベート医療ならその点は比較的心配ない、と明るく言い切りたいのであるが、例えば今回の上記診断費用はこうなった:
/ CT scan -- 約10万円
/ Blood test etc -- 約2万円
/ Dr's Consultation -- 約5万円
/ X-ray -- 約1万5千円
/ Consultation (follow-up) -- 約2万円

保険が効くとはいえざっと20万円。しかもまだ治療の前段階だ。富裕層以外のUKの一般勤め人がホイホイと出せる額ではない。さらに、この土地では>算術<の要素も含まれるので、医者次第で値札は無慈悲に吊り上がる恐れがある。
この症例だと、日本で診察する場合、手術と入院を加えてもせいぜい患者のトータル支出30万円との見積もりだ。また、日本の医療制度では どういう設備でどういう治療を行っても個々の症例毎に最大額はCapされていると別の日本人医師から聞いた。
いつもながら、UK人が気の毒だ。

では、"UKでは金がありさえすれば満足な治療が可能" と思っていいのだろうか?

頭痛持ちのUK人同僚のVは、ある日我慢できない偏頭痛の原因を知るためNHSの門を叩いた。結局NHSでは延々と待たされるので、痺れを切らしたVはプライベートの医者で、X線撮影の予約をした。撮影日まで数週間のWaiting期間が過ぎ、撮影日に、結果相談日の予約をこれまた数週間のWaiting期間で入れた。
その相談日の午後、出社したVに結果はどうか尋ねると、苦い笑顔でこう答えた:
「いやー信じられないよ。この前撮った写真なくしちまったらしいんだ。また撮影日の予約しなきゃいけないよぉ。」

V曰く、この国の一般人は骨が折れたりしない限り医者になんか行こうと思わないそうだ。さもありなん。USみたいに、地獄の沙汰も金次第 と言い切れるならまだ収まりがつくのだが。


〔 To be continued / Fortsetzung folgt 〕





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Last updated  2004.12.17 00:29:10
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