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おいろーぱ野郎

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2005.01.22
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カテゴリ:das Thema
 昼を挟んでOffice間の移動になる日はMotorwayの休憩所で食べられそうなものを探すことが多くなってきた。
 自分の行くM3のそれはWelcomeBreakと名付けられ、長距離運転者や行楽客のトイレ休憩や食事に利用されている。何故か移動している軍隊の休憩にも利用されているようで、全身迷彩服の若い兵隊さんたちが集団でたむろしている所に出くわすことがある。飲食施設の隣には宿泊施設があることも多く、その点はドイツのそれと変わらない。

 駐車場から10段程度の階段を上がれば、日本ほど気の効いていない売店と、日本よりバラエティに欠けるゲームセンタの一角と、Europeのどの場所より味気ないセルフサービス軽食喫茶コーナーが待っている。その一輪挿しで枯れかけた花の哀れさを補うかのように、脇を固めるKenXuckeyFriedChickenとBurXerKingとMcDoXaldの店舗。敢えて悲しみを倍加することを意識してそれらを付け足し配置したとするならば、さすがシニカルなお国柄のことだけはある。
 軽食喫茶コーナーではBreakfastと称し、分厚くてビーチサンダルのような弾力のやけに塩辛いベーコンと目玉焼き、ソーセージと呼ぶのがはばかられる腸詰風物体などを含むセットメニューがある(焼いたトマトの事に触れる勇気は無い。)
 比較的当たり外れの少ないFishAndChipsも選択肢の中にはあるが、油を好まない人には存在しないに等しい。時々チキンカレーがグリルの上で湯気を立てているのを見かけたりするが、味は街中のレストランに比べればオトナ騙しだ。常設の写真入りMenuに堂々と載っているにも関らず、注文すると「今日は無い」と悪びれもせず答えられるのも、何気なく心が傷ついて寂しい。

 半年位前の在UK邦人向け無料情報誌にEurope各国の高速道路沿い休憩所ランキングに関する記事があった。それによると --想像するまでも無い事だが-- サービスの質という点でUKの休憩所は最低評価をたたき出していた。食事の品質が低いのは最早誰にも変えようがないが、その価格もまた、お腹を空かせたドライバー達を懊悩させる。

 南ドイツでは通称名でRasthofと呼ばれる休憩所をアウトバーン沿いに見つけると、用も無いのに冷やかしで覗いてみたくなる。例えばA8をMuenchenからSalzburgに向けて東に向う途中にあるそれらに入ると、各種の民芸品、雑誌、地図やお菓子などで賑わう店内に、軽食をサーブしてくれる一角がある。
 ハム・ソーセージやチーズの類が得意でない人にはつらいChoiceかもしれないが、塩味が効いたバリエーションに溢れるそれらや、新鮮なサラダやシュニッツエル(=カツレツ)、グラーシュ(=ハンガリー風のビーフシチュー的スープ)などの暖かい料理を選ぶ事ができるのはありがたい。
 空腹度がそこそこならブレーツェルン(=粒塩が散りばめられた南ドイツでは一般的なパンの一つ)とカプチーノで済ますこともできる。場所柄も幸いし、表に広がる農地の向こうに、アルプスを構成する山々の一部の姿をテーブルに面した窓から望むことができるオマケまでついている。

 郊外までくると、街の中では薄汚れた印象のMcDonaldだって装いを変えてくる。同じA8沿いにあるさっぱりとした山小屋ロッジ風の外観をしたそれは、メリケンヤンキー娘がバイエルンの民族衣装に袖を通したかのようにしおらしく明るい印象を与える。
 建物の中も悪趣味な原色使用は抑えられ、長くお付き合いしていると精神に支障を来たしてくれそうなアメリカ風のキャラクタ達は最小限の出番しか与えられておらず、Europe人のUSアレルギーを極力抑えた風合いに演出されている。
 金のための努力とはいえ人々を満足させているのだから良しとすべきだろう。

 先のUK軽食喫茶コーナーのせめてもの救いは、期待に反して“スパゲティ”がそこそこいけたことだ。スパゲティごとき、中華料理と同じでそう外れるはずがないと思うかもしれないが、UKでは諸事に予測がつけにくい。
 卒業旅行と称してUKを一人旅したときEdinburghで食ったそれと、その3年後に教訓を生かさずLondonで食ってしまったそれは脳裏に深い後悔とともに刻み込まれている。前者については、 ふにゃふにゃで水っぽく味が薄い と思いながらも食べ通し、最後になって皿の中に見つけた異物の -- 広げてみるとXXペンスと書かれた値札だった -- おまけまでついてきた。
 会計でスコットランド人の邪気の無いお姉さんに「美味しかった?」とニッコリ微笑まれちゃ、「値札が特にまずかった」なんて言えやしない。

 UKよりは遥かにマシだが、ドイツでもイタリア人の少ない地域などではパスタのレベルは高くない。おざなりの料理が多かったりする社内食堂などもそれに含まれ、ソースはともかく、茹であがった麺にアルデンテを期待できないことがその特色の一つだ。
 日本の偉いさんがEuropeの或るBizUnitを統括するためにドイツに赴任してきた時のことをかつての同僚M氏から聞いた。
 この強面氏の耳に、「ドイツで食べるパスタは柔らかすぎて給食の“ソフトめん”に匹敵する」と、周囲が生活上の注意点のひとつとして吹き込んでいた。
 見つめられると石にされかねない 眼光鋭い氏は、ある日イタリアンレストランへ出かけた際この心得を思い出した。
 ほどよく堅目にゆでられたパスタにありつくべく、注文を受ける店員に静かな威厳をもって、英語ではあるが、堂々と伝えた。
「プリーズ、  ボイル、イット、 ベリー、   ハード。」
 間違いの無いように、訊き返す店員に、低くドスの効いた声で、ゆっくりと強調する。
「ベリー、   ベリー、     ハード。」
 厨房に戻った店員は深刻な表情のクライアントの注文をその通りに伝え、料理人は湧き立つ鍋に投げ入れたパスタを、茹でて、茹でて、茹でまくった。

 命の限りに茹であげられ絶命した麺を携え、満足そうに皿を差し出す男と、意志の勝利を確信し静かに微笑む男。
 暫しの沈黙を、ハードボイルドな夜が包む。





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Last updated  2005.01.23 13:36:02
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