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カテゴリ:das Thema
線路際に並ぶ 5m四方位の大きさの看板群を、通勤途上 横目に見て通り過ぎる。映画や食品の広告が載るそれらは10日程度で適宜更新されるが、新年になった頃だったか、白地に黒い手書き文字の意見広告がお目見えするようになった:
「どうして病院を清潔に保つなんて(当たり前の)ことができないの?」 「移民に制限を設けることは人種差別ではないと思う。」 その広告主は野党保守党だ。 街路樹が新緑でみずみずしいCommon沿いに並ぶ高級住宅の垣根にも、野党保守党支持と書かれたミニ看板を一つ見かけるようになった。昨日はついに自分の家にもチラシが届き、A3二つ折りカラーの紙で笑顔を振りまく、この地区の労働党選挙人の姿がそこにあった。日没帝国の総選挙は今週5日に迫っている。 当然ながらラジオでは連日この話題が登場する。話題の中心人物は勿論 与党労働党の首相Blair氏で、そのKeywordは>うそつき<だ。 2日前に立ち寄ったPubでコーヒー片手に眺めたThe Daily Telegraphの大見出しには“Iraqの亡霊に脅かされるBlair”の文字があった。参戦検討期間中に、Blair氏が“参戦は合法的でない”とする法務長官の私見を、”参戦は合法である“と解釈し国会に提出したという事実が、守秘されるべきドキュメントの流出という形で選挙終了の土壇場で明らかになったらしい。それを受けBlair氏は野党や国民から一層の非難の的にさらされている。保守党党首のHoward氏からBlairとliarという文字が出て来ない日は選挙日を迎えるまでないだろう。 そのThe Daily Telegraphに、与野党3党首の誰が選挙に勝つ為に嘘をついていると思うかを調査した結果が載っていた: Blair(労働党)/ Kennedy(自民党)/ Howard(保守党) = YES 58: NO 26 / YES 22: NO 46 / YES 51: NO 24 (各%、YESは嘘つきの意) そして、どの政党に投票したいか が続く: Blair(労働党)/ Kennedy(自民党)/ Howard(保守党) = 36 / 24 / 32 (各%) 保守党は、公営病院NHSの運営など、労働党の失策に対する様々なNegative Campaignを、国民に対し嘘に嘘を重ねるBlair氏の不誠実さへの集中攻撃に切り替えている。Iraq侵略で息子を失った家庭からは、合法的でない(とされる)戦争を主導したBlair氏を戦争犯罪者として法廷で裁くべきだと息巻く声もある。犠牲を見越して国益とのバランスを取るのが指導者の仕事であり、それを承知で軍務に就いている国民がいるのだが、始まりの合法性が揺らぐ中では気持ちに収まりがつかないのだろう。 上記保守党の意見広告看板は、ラストスパート的総括なのか、数日前にうつむき加減の白黒Blair氏の笑顔に切り替わり「彼が更に5年、って想像してみなよ」という言葉が隣に並んでいる。 しかし、上の結果で個人的に笑ってしまうのが とりたてて嘘をつく必然性の無いHoward氏も嘘つき度が高い(=少なくともNOの%に関してはBlair氏と大差ない)と考えられていることだ。確かに、写真であの不気味な笑顔を見るだけで、財布から幾ら巻き上げられるか不安になってしまう。 UK人同僚Vに言わせると保守党はサッチャー政権から全ておかしくなってしまったらしい。例えば鉱山ストの場合には、対話でなく閉山で話があっけなく終結を迎え、後には失業者が残るといった具合に、その強硬なスタンスは(時には繊細な)UK人の心に大きなトラウマを残したようだ。日没帝国の事を知るにつけ、労働党政権なんてありえないだろうと思った自分にもBlair氏の登場は驚きだった。逆を言えばそれほどの不満が国民に鬱積していたと言えよう。 与党も最後の努力を続けている。上記、自宅への労働党チラシには党と地区選挙人の功績に加え、他党への厳しいNegativeコメントが載る。 「強い経済は全てを利する。」という中心主張は勿論、「これは(労働党と保守党)2頭の馬によるレースだ。」という見出しつきで、真の脅威である第三党自民党への流出票を阻止し、保守党を利する事の無いようにと誘導している。 弱い者いじめはやめときゃいいのに「自民党は過去二回の総選挙で惨めな第三位に終わった。」とまで書いてある。隅々まで競合者をコケにする努力を怠らないのは、意地悪なお国柄の伝統かもしれないが。 こうした与野党の努力をよそに、同僚Vは投票したい政党がないとこぼしている。 嘘つき議論とは別に、例えば彼から総選挙前の人気取り政治ショーの一環だと切って捨てられたものに、先月破綻が決定したRover社への資金援助(=労働者に対する未払い賃金の何週間分かの補填)がある。 1ポンドで売られる位お粗末な経営状態の会社なんて、帝国としてのSentimental Valueが幾らあると言っても、資本主義の世の中では死んでいくのを止められない。中国企業に売ろうとしても拒否された(=共産主義ですら救えない)いわくつきの企業を血税で援助する真の目的に、少なくとも選挙期間中は大量失業を阻止して総選挙への影響を抑えたい という意図がある事が、国民には透けてみえるのだろう。 ドイツでは2002年の総選挙に居合わせた。増加する失業率を拠り所にした野党CDU Merkel女史 + CSU Schtoiber氏(=バイエルン州のドン)組に対し、SPD Schroeder氏はIraq戦争批判+US批判で辛うじて連立与党の地位を保持した。得票率は忘れたが、深夜にTVで見た開票速報では僅差の勝利だったことを思い出す。言葉の制約も含め、事情知らずの野次馬がいう台詞ではないが、もし豪腕Stoiber氏が政権を握っていたなら低迷するドイツ経済は今より若干明るかったかもしれない。 素人にもそう予想させるのが可能な背景には、選挙ショウを織り成す構成要因の色分けが容易で判りやすい事が挙げられるだろう。舞台や大小道具、そして役者の個性が明瞭であればあるほど、話のあらすじに想像がつけやすい。 世の中のこういう様子を目の当たりにする反面、自分には 極東の孤島が舞台の 似たり寄ったりcastによる、ウケないアトラクションだらけの真似っこショウにしか参加できない。それは寂しいものだ。楽屋裏では随分とカネの匂いが漂い、薄暗い照明の奥には任侠稼業の方々の椅子も用意されている様子で、勤め人の日々の暮らしからはどうも距離がある。そしてショウの間、街角で、狂気に駆られたように大音声で空中に連射される一方通行の言葉の砲弾は、ユーラシア大陸の反対側の国々から縁あって孤島に移り住む人々から嫌悪されている事を知っている。さもありなん。 しかし、幸か不幸か、ショウにも少しは共通点があるらしい: 朝の通勤途上、A3を南下する車中でラジオのDJ達が茶化していた。 「でも、労働党にしろ保守党にしろ、俺たちさあ、、、地区選挙人って余り見たことが無いよね?」 「そうね。確かに見ないわよねぇ。選挙が近くなれば別だけど。」 「そうなんだよなぁ。大体、普段見たことも聞いたことも無い 知らない人達をどうやって選べって言うんだろうねぇ? わはははは。」 「あはははは。」 *** 補足 *** 保守党意見広告に登場する文言に、説明を盛り込み纏めた小冊子をTesco(=UK大手スーパーマーケット)の雑誌売り場で見かけた。 赤旗よりは売れるかもしれないけれど、政治献金としてはスズメの涙程度でしかないか。しかし国政への参加意識を身近にさせる小道具といった役割は荷っている。 極東でのショウに取り入れるには演出が過ぎるかねえ、というよりそれ以前にそんな妙なもん買わないか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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