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おいろーぱ野郎

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2005.11.15
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カテゴリ:das Thema
 食用油がこびりついた飲食店の裏口のように冴えない都市部が終わりに近づく。高速の脇に、”KOI SALE” と一言、紺地のビニールシートに大書された広告を目にする。その柵で囲まれた四畳半程度の一角に、乱雑に積まれた たらい のようなプラスチック成型品が山積されているのに気付いた。
 曲面の様子から予想するに、どうやら造園用の池の張り型らしい。ああ、KOIとは錦鯉のことか。確かにあの生きた極東産工芸品には、KOIという輸入語を与える価値があるかも知れない。
 四畳半のなかには人影を見たためしがない。どうやって商売が成り立っているのか奇妙に思っていたが、よく見るとすぐ隣の平屋建ての軒先からAquariumだとかの文字が垂れている。単色ツヤあり群青で壁一面を塗られた、ドア以外には窓のない造り。大陸の街角にあるPornShopみたいだ。するとKOIはただのカモフラージュなのか。

 一年位前から日没帝国新聞各紙にSUDOKUという言葉が目立つようになってきた。どういう新聞にも(誰が望むのか)ページのひとつに小さくクロスワードパズル欄が設けられているものだが、SUDOKUはそのお仲間で、九つに区切られた升目とそれを貫く行及び列の升目に重複しないよう1-9の数字を並べていくパズルだ。初めは某紙にのみ取り上げられていたらしいのが、(どこにそんな需要があったのか)熱烈な支持を集め、今やほぼ各誌がSUDOKU欄を用意していると聞く。
 自分が初めに読んだ新聞の解説では、「語感から察するに、これがまたも極東日本からの輸入品かと思ったあなたは大間違い。これはNYを発祥の地とするパズルだ」などと書かれていた。実際には日本のニコリという(誰が読んでいるのか見当のつかない)暇潰しパズル専門雑誌出版社?との提携による産物であるらしい。SUDOKU専門の暇潰し専門雑誌も日本同様お目見えし、事実、どの本屋でもその言葉を目にしないでは済まない有様である。日本人向けのミニコミ誌には、SUDOKUの由来を「数字は独身に限る」だと解説しているものがあるが、一般の日本人がそんな省略形を考えつくものか、どうも胡散臭い。

 倭が国では近年US語の輸入超過に陥っていることに反し、日没帝国では世界の各産地からカラフルに輸入語を取り入れているようだ。言うまでも無く、多様な人種構成とアングロサクソンの鷹揚さ(=あるいは無神経さ)が背景にあるためだろう。その点、アルプスの氷河のように溶ける事のない保守的風土の故に、南ドイツでは輸入語に警戒心が高いと予想される。街角のDoernerKebabを許容はするが、魂にまで入り込んでもらいたくないのはよくわかる。

 そんな日常では、TVやラジオから前触れなく日本語が流れ出る場面に出くわす事も多い。当世ではあれを打ち込み系というらしいが、合成的針飛びリズムをバックに、若い嬢やの黄色い声がClub系新譜のリリースをラジオから喧伝する。べらべらとこぼれ出る音のなかから ぐっと耳に飛び込む 「Stereo スシ」の言葉。
 寿司人気に便乗して、星の数ほどあるClub系リリースCD群の中で生き残りを狙ったのか、珍妙で人耳を引くタイトルで勝負にきたようだ。「version ワサビ」という声がダメ押しに続く。首尾よくワサビをそこそこ売り上げた暁には「version トロ」 や 「ガリ」 が続くのか。

 ネガティブな色合いがなく輸入語が広告に使用されるなら、その輸入元の国の文化も危険とは見為されていないと言えよう。日系企業にもそれを逆利用しているらしき所がある。例えばホンダUKのラジオCMでは、穏やかな口調で Yume = Dream、および Yume no Chikara という日本語の意味の説明が30秒程度もの時間をかけ電波に乗る。
 それを聞くたびこの企画によくOKがでたなと半ば唖然としつつ感心するのだが、ドイツ車と並んで国家ブランドイメージが高い日本車であるがゆえ可能になるのだろう。
 Audi UKではCMのナレーションの後に必ず、”Vorsprung durch Technik"の決めゼリフが入る。綴りをそのまま英語読みしているのでドイツ人には失笑を買うところだが、普通の帝国人には購買欲をそそのかす魔法の呪文として機能するはずだ。

 これらの底流には、全てがそうとは言わないが、"エキゾチックな風合いならなんでもいいのよ" という作り手側の態度が存在すると感じる。重要なのは如何に異国情緒を言葉巧みに演出し、商いのタネとするかだ。ただの消費材に過ぎないものに言葉の意味なぞ誰が気にしよう という割り切りは、言葉の持ち主側には滑稽で、かつ、初冬の湖のように寂しい。
 しかし、今となってはそう鼻で笑う余裕もあるが、残念な事にこれは都合よくその存在を忘れた合わせ鏡の片方にすぎないと気付く。
 
 戦後、例えば自分に物心のついた昭和の後半あたりでは、闇鍋チックな外国語借用によるお手軽な異文化憧憬を買い手の購買動機に利用せん とする広告や商品が倭が国にも溢れた。地道な教育の成果と集団催眠とムラ社会が奏効したか、一時ほどの派手な勘違いコピーを見つけることが少なくなったとはいえ、子供達の衣類や日用品の類に並ぶ意味不明の欧米外国語もどきはいまも健在だ。文法的誤りはなくても外国語による奇怪なコラージュをふと見つけたとき、それを脳が意味にBridgeするための沈黙は、頭の体操に役立つかも知れないけれど。
 そんな過去を纏う身には、一方通行に思慕する相手からこちら側に興味を示されるのはむしろ光栄である。しかし相手の興味を積分した結果、闇鍋が仕上がりそうなら、やや不安にもなる。

 Ocadoという健康食品指向宅配スーパーのCMがある日ラジオから流れてきた。どこにでもあるような売り口上に混じり、どうでもいいキャンペーンの説明が始まる。
 日本のスーパーに並ぶ生鮮食材の品質礼賛の後、東京行きのチケットが抽選で当たるよ などと勧誘する内容だっただろうか、突如、日本人と思しき男のナレーターがパステルカラーの脳細胞の69%をAllocateしたような妖しいスケベ声で、舐めるように、言葉をゆっくり区切りながら囁き始める。

「せーる、開催中ーゥ、、、。 君の、トリのモモ肉が、美味しそぉぉうぅだからぁ、、、。」

これを耳にし、異国に対するいくばくかの憧憬や畏敬を胸に抱いた人達もいるのだろう。「それらしい」事が「それ」より大切だというスタンス、ご立派ではありますが、誠に遺憾に存じます。




*** 補足 ***

+ SUDOKU
 
+ Stereo Sushi
  甘かった。ワサビのみならず 太巻、酒、照焼までも。。。
 (酒、ってどうしたら寿司ネタになるのか。。。 照焼って、、、寿司?)
  ページTopのキャラクタ付きロゴ右端に小さく見える "ケギノッ" という謎の片仮名の類が、この手のキッチュ広告にはありがち。
 しかし、、、。







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Last updated  2005.12.10 10:28:34
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