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おいろーぱ野郎

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2006.01.27
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カテゴリ:das Thema
 Landing後に席を立ち、頭上の荷物を取ってから携帯の電源を入れるとすぐにWからの呼び出しが入った。お互い些細な事情があってWashingtonDCまでの空路を別Airlineにしたため、到着後に乗り継ぎ便カウンタで待ち合わせしていたのだが、几帳面なWは怠惰な自分が無事に着いたか(+約束を憶えているか)を心配してくれたようだ。

 5年振りの東海岸出張は、同時にその間US入国履歴が無いことを意味する。Sept11以来厳しくなったと言われるImmigrationでどんな酷い検査をされるのか興味津々だったが、何の事は無い、全ての指が親指みたいな巨漢の係員が、自分の両人差し指の指紋をスキャナで取り込み、頼りない画素数のWebCamのようなGadgetで顔の撮影をしただけだ。
 これでこの国のどこぞのDataBaseの中に薄笑いを浮かべた自分の写真が鎮座ましますことになるかと思うと、猫も死なないような爆弾がそこにひっそりと仕掛けられたかのようで、ちょっとニヤリとしてしまう。
 肖像権侵害だから侵略戦争に使う予定の金を少しよこせ といえる位、自分がBigShotであったならもっと健全だったかもしれないが、それは生まれ変わった後の楽しみに取っておこう。
 ところで、こんな所で入国拒否されたくないから言わないけど、入国カードの半券を無造作にホチキスでパスポートの中央部にとめるなよ。どういう意識か知らないが、お前さんはこの瞬間だけは国の代表なんだぞ。

 親指野郎の露払いの後には哀れなほど鈍感なX線荷物検査係が待っていた。だからさ、そんな無造作にどんどん荷物を流すからベルトコンベアがスタックしてるだろ。B級CarAction映画じゃないんだから下流でヤラレ役のパトカーみたいに荷籠が積み重なってるのを見て少しは反応しろよ。世界でNo.1の国って標榜できるのは品性が内税扱いになってる場合をいうんだぜ。別に靴脱がされたから毒づいてるんじゃないんだけどさ。

 乗継ぎ便のUAカウンタを目指し、殺風景なDulles空港内をそぞろ歩く。一泊三日は望む所だと皆の前で言い切ったが、やっぱりこんな日程じゃ体に悪いかな。新入りのK君に禅譲すればよかったかな。だめだそんな弱気じゃ。この地でテロリストとの熾烈な戦いに勝利した子Bush、じゃなくて、BruceWillisを思い出すんだ。

 やがて合流したWが、蒸し暑い中1セントも持たずに喉を渇かしている自分を哀れんでドーナツ屋でアイスコーヒーを注文してくれた。受け取ったコーヒーは湯気が立ち上って持つのも熱い。苦々しくWが呟く。「だからこの国は嫌なんだ。前も同じようなことがあったけど、奴等 俺のイギリス英語をわかっちゃいないんだよ。」 
 後で知ったが、Dulles空港の旅行者向け施設の従業員には移民が多いらしい。なのでこのように意思の疎通が図れないことはままあるようだ。

 先の入国係官達も然りだが、政治のヘソである特別州にしては よくある他州の空港と旅行客への接点について大差はない。
 異国からの旅人に現代の覇権国の威光を知らしめる工夫がないのは努力不足じゃないかと余計な気を揉んでしまう。御得意の、根拠が無くても何でもナンバーワンの国というイメージをここぞとばかりに旅行者に植え付けるべきだろう。
 素晴しい功績に満ちた政治の首都DC。偉大なる合衆国大統領に対する敬意とその国民であるプライド。材料なんていくらでもあるわけで、そこからくる余裕の接客態度を見てみたいものだが。

 などと思いながらショッピングエリアを通り過ぎると、各種土産用Tシャツが売られているのが目に付いた。
 軒先で最も目を引くように飾られたシャツと、脇の二番手のロゴは各々こうだ:
 -(黒字の生地に大きく) "Don't Blame me -- I voted for Kerry !!"
 -(ムンクの「叫び」の絵柄の下に) "4 More Years !!"
 
 土産物屋のレジの隣には、旅行者に最後の駄目押し買いを後押しする小物が並んでいるが、そのひとつにミントの缶ケースがあった。
 子BushがCowboy姿で片手にピストル、片手に金の入った布袋をぶら下げた絵柄が印刷されている その蓋の最上部に一言ロゴが入る:
 "Embarrassmint"

 結局 ここの人達は国の体裁よりも経済合理性で生きているのだろう。そりゃそうだ、子Bushを持ち上げた御土産なんか作ったって地球上のどの国の旅行者にも売れないよな。


 座席が合計3列しかない鉛筆飛行機は南東へ向かった。


 日の暮れかけたNorfolk空港に到着し、眠い目を無理に開けながらTAXI乗り場を目指すと、空港内の装飾がどこかしら南方系なのに気付く。W曰く、同僚Aが夏に観光目的で来たことがあるらしい。地図上Virginia州にBeachはあるが、こんな緯度の高い場所が夏季の観光地だとは思いもよらなかった。
 
 PalmTreeとインドネシアだかタイだかの高床式住居を模したような場違いな商店が並ぶ中、通路には人魚が刻まれた石の彫刻さえ置かれていた。雪降るMuenchen動物園で息を潜めているゾウと同じで、こんな寒さじゃ人魚もさぞや住みにくかろう。
 
 平たく且つ弾力のある ソーセージという名前の、しかし格好はハンバーガーパティそのものの肉を朝食の皿に取り、薄いコーヒーを流しこんだ後、HotelをCheckOutして隣のビルまで歩く。Partnerさんとの打合せを行うガラス張りの小部屋にはVisitor用に飲み物やちょっとしたSweetsが用意されていた。
 苺にホワイトチョコがコートされている手作り風のお菓子をもぐもぐさせながら、Wが呟く。「この会社結構儲けてるかもしれないな。だってVisitor用に苺が出るって、普通は無いよ。」 
 おいおい、そりゃあ日没帝国では高級品かもしれないけど、ここじゃ物価がはるかに安くて苺なんかありふれてる筈だよ。 君、優秀なマーケティング屋なんだから出張中くらいBrit根性を切り替えないとお里が知れるぜ。だから全部食べないで一つは残しといてくれよな。

 やがて先方との打合せが始まった。BritishRocksterのような風貌の饒舌な若手社長と押しの強い副社長、そして敏腕マーケティングとささやかれるM嬢の三名は 良く設定されたSitComのように各々の個性を浮き立たせていた。 なかでもスレンダーで物静かな黒髪のM嬢は60-70年代のEurope映画に出てくるような憂いのある表情で、しかし確固たる意思を持ちそこに存在していた。時間と共に潤いを失い、美しく枯れていく花束を思わせる妙齢の彼女は、放っとくと永遠に話し続ける情熱的な社長と、握り拳のジェスチャーを交えて己の主張を通さんとする副社長の強烈な個性の狭間で、自分の言うべき事を口数少なく 適切な時期を見計らって伝える。やまとなでしこ めりけん版といったところか。
 東部にはこういう女性が良く似合うと勝手に納得していたが、昼食の際、彼女がTexas出身ということがわかった。なるほど、男尊女卑の傾向が強いと揶揄される南部では、彼女のような存在は稀でない気がする。あの聞きづらい発音の理由もそこにあるのね。
 しかし何故彼女がこんな所で仕事をしているのか、やんわり聞きたい気持ちはあるが、気安く尋ねることでもなかろう。

 海岸沿いのトンネルが4時以降ひどく渋滞すると聞き、食事後に空港まで送ってもらう事になった。景色を見ながら、"羊達の沈黙"って映画はこんな感じの東海岸を舞台にした映画だよね、と運転中の女性に尋ねると、あれはここが舞台なのよ、とのこと。更にWが、ここには映画に登場するFBIの訓練学校があるんだと補足する。道理でJoddieFosterの顔を思い出したってわけだ。

 Norfolk港はUSの誇る歴史的軍港の一つで、空母も停泊するらしい。150年位前にはペリーの黒船だってここから極東にやってきたくらいだ。件のトンネルに入る前に海をまたぐ水面すれすれの橋から港の様子がパノラマのように見えてきた。
 そこから見渡せる対岸にはグレーの空母級の船が2隻いた。橋の脇、車のすぐ脇の水面上方5mくらいの位置にはヘリコプターが1機ホバリングしている。ヘリの直下で救助訓練か何かが行われている様子だ。
 FBIは無論のこと、アフガニスタンやイラクにしろ この場所とは何らかの形で繋がっているのだろう。弱々しくも開放的なカントリーサイドの風景はカモフラージュで、その背後で人には言えないような事が企画され、執り行われているってわけか。このPartnerさんにしても、Enduserが政府系の組織だという事以外、彼らの商品の現場での使われ方については何も教えてくれないのはそういう事情が含まれているのだろうか。
 EuropeでもUKでも、仮にPartnerさんが軍事産業に関わっているとしても、訊ねたことにヒントくらいくれるのが普通だが、西海岸の同僚から聞いた話も含めて類推すると、この国では情報のリークは文字通り命取りなのかもしれない。
 人魚が本当にいるのなら、仮に夏であろうと、水の中まで火薬臭いこんな所でおちおち寝てもいられないだろう。いや、人魚自身がポセイドンの三叉の槍を携えているってこともあるかもしれない。
 
 Norfolk空港を夕暮れ前に飛び立った鉛筆飛行機から、沿岸の様子がくっきりと判る。あちこちに停泊した鈍色の船とドックやプラントのような建造物の数々はやがて薄雲に紛れ込んだ。


 日没帝国Officeに戻り、コスト上、涙を飲んで出張を辞退した同僚Nに一連の話を伝えた。仕事の話はさておき、ミステリアスなMにまずは個人的関心があるらしい。そっとしといたほうがいいんじゃないの。何か訳アリかもしれないしさ。
 なんて偉そうに言ってはみても、容量不足で使えない自分の脳細胞の一部は、人魚の力ない笑顔に見え隠れする陰りに いまも占有されたままだ。





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Last updated  2006.02.26 22:32:21
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