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新装開店直後の成田第一Terminalは広く明るく、入国審査後の土産物売り場などの施設はドイツ的に抑制の効いたラインナップとなっていた。
準備する余裕が無かったので、現地で待つIさんの勧め通りに、胃腸薬の類を買い込もうとしたのだが、日本では普通にありがちなフル装備の薬局が無く、(ドイツでは処方箋を持たず薬局で手に入れられる薬が意味をなさないように)これまた非常に抑制の効いたラインナップの中からの選択になってしまった。とは言っても、そんな気休め薬程度で直るものなんか、彼の地では病気のうちに入らないだろう。 なにせこれまで香港より南西に行ったことがないのだから、機内の窓から見る景色は想像力を刺激する。Vietnamに差し掛かった頃に空と大地を橋渡しする積乱雲を飽きもせず眺めていると、飛行機は幅の短い国土をあっさりと横断し、やがてThaiの上を飛んでいた。 Bangkok空港内のラウンジで4時間潰した後、Bangalore行き待合ロビーに移動するとインド人の風貌をした旅人が多くなったことに気付く。当初の計算違いで実はこれから日本対Croatia戦が始まることを知ったが、職業人の義務感から行く事を決めた以上、仕方ない。ホテルのTVで結果のダイジェスト版が見られるかもしれない。 乗り込んだThai航空機は型遅れのくたびれた感じがした。尾翼方向から乗り込むと、余程の湿気なのだろう、機内のBizClassもEconomyも、全ての座席上部の空調吹き出し口から地方の花火大会でよく見るような"ナイアガラの滝"のように白い蒸気が間断なく流れ落ちている。 本当は冷蔵庫なのかこの飛行機。なんだかスーパーの生鮮食料品売り場の乳製品にでもなったような気分だ。よく冷やされた挙句、文字通りこのまま仏様に召されるのか。 召される前に召せ とばかりに機内食のほうれん草カレーを胃袋に入れたりしているうちに、すんなりと深夜のBangalore空港に到着した。 表に出ると、暑く湿気のこもった夜の薄明かりの中に、土埃が舞いそうなむき出しの地面に立つTaxiの運転手たちが旅行客達を群れをなしてのぞいている。殆ど皆が手に札を下げているが、中には人名に加え、IBMやSiemensなど大企業の名前が書かれているものもある。 温度湿度的にはTelAviv空港に似ているが、行為自体はHeathrowなど欧州のどこの国とも差はない。 Singaporeから合流する同僚Eの手配した運転手付きミニバンは苦も無く見つかった。 シートに腰を降ろしまずは時計を合わせたが、日本から3時間30分遅れているらしい。判ったよ、でもこの30分ってなんだい。 蒸し暑い空気をかき回しながらHotelへ向かう車中で、ターバンを被った運転手氏は彼の視界に何かがよぎると即クラクションを鳴らす。 車やノーヘル2人乗りバイクが隣にいると鳴らす(=彼らに対し音で自分の位置を知らしめているのか。)暗がりの中、車道脇をミニバンに正対して走ってくる人に鳴らす(=明らかに危険だからだが、その前にそんな所走るなよ。)犬が2、3匹 道路端で喧嘩していると鳴らす(=仲裁しているのか。) 無口に映るインド人もクラクションを介すと饒舌だ。 小道をくねくねと曲がり、無事にHotel Leelaに着くとターバンを被った探検隊長のような番人さんがお出迎えしてくれた。それまでの廃墟は何だったのと言いたくなる位、落ち着いた高級感を感じる建物だ。Reception Hallは広く静かで、天井が高い。いやがうえにも格式が高そうだ。 それもそのはず、チェックイン後に気付いたのだが、ここはドイツの高級ホテルKempinskiのフランチャイズだった。確認を兼ねて浴室をのぞくと、お気に入りのGroheのシャワーが据えつけられている。となるとこのHotelの中では、我が父国ドイツのようにすべてが快適ってわけだ。アメーバ赤痢に罹ったふりでもして、明日から外に出るのやめよかな。 しかし、その昔は、日本国もきっとこんなものだったのだろう。極東の、しかも未開の異国を訪ねる破目に陥ってしまった異人さん達は、彼らの感覚という血液に最も近い生理的食塩水を備えたホテルオークラでのみ暮らすことができ、窓からのぞく景色を恨めしそうに眺め、東京という名の魔境にもオアシスがあることを噛みしめていたのではないか。 ひとごこちついた後には、自分のなすべき事に注意が向く余裕が出る。居間とベッドルームが別室の、広い間取りの部屋に据えつけられた書き物机。その引出しを開け、国際電話とISPアクセスポイントの情報を確認する。眠い目で繰る客室Manualに見つけたISPの名前は "マントラ・オンライン"と"サティアン"だ。 土地柄仕方ないかもしれないが、もっと旅人を怖気づかせない名前を付けたらどうだい。 異境の蒸し暑さは西欧文明の誇るエアコンがかき消し、静かな夜は、その部屋が印度亜大陸にあることすら忘れさせる。ドイツ系ホテルの点滴のおかげで今夜は浸透圧を保っていられるが、明日からどうなることだろう。世俗にまみれた愚か者に、悟りへの道は遠い。 *** 補足 *** The Leela Palace -- Kempinski Bangalore お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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