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カテゴリ:ちと硬派
最近の日本でキーワードになっていると思しき「経済格差」を地でいく本。かなり面白い。しかしある意味身もふたもない(笑)。
大学社会学部から流通系企業、シンクタンクを経て独立という経歴を持つ著者は、主に団塊ジュニア世代を対象とした膨大な調査データを用い、生活水準が「上流」「中流」「下流」に属する(と自分で思っている)人々の特性を様々な角度から読み解く。そして今の社会は「下流」が増加傾向にあり、しかも次世代に向け固定化傾向にあると警鐘を鳴らす。 これでもかとばかりに繰り出される調査データの例はこんな感じ。 1.所得水準と既婚率は男性はきれいに比例。その分水嶺は年収500万。 2.「下流」階層は生活において「自分らしさ」を重視する傾向あり。 3.「下流」男性の趣味は引きこもり系(パソコン、ゲーム)、「下流」女性は歌い踊り系(音楽、ダンス)。 4.「上流」階層はゆとり教育に否定的。 5.首都機能の郊外への分散とインターネットの発達が、階層による居住区の固定化をもたらし得る。等々。 いやはや、身もふたもないと思いませんか? そして著者は特に女性について、生き方は多様化したが幸福の形も多様化したわけではないとして、依然として古典的な形態(=稼ぐダンナと幸せな結婚&子ども)への幸福感&階層意識は根強い、との論をぶつける。 さらに、「上流」女性の典型例は高学歴・総合職・仕事できる・容姿端麗・結婚後は専業主婦としててきぱきと家事育児、とフェミニストが読んだら火を噴きそうな表現でダメ押し。 この読後感、どっかで感じたなあ。あ、この本だ。 社会現象となったこの本も、「どんなに仕事して稼いでも、やっぱ最後は結婚&出産が女の幸せ」ってな思想をユーモラスに書いてた。こっちは酒井順子さんが自らを振り返って、また友人たちを見て「感じた」ものが出発点にあるが、「下流社会」の方は調査統計データの嵐から導き出される「ファクト」がベース。メソッドの異なる両者が図らずも同じ方向性を示しているのが興味深い。 ま、そうは言いつつ、この「下流社会」のメソッドには若干疑義もあるんですけどね。 まず、これは著者自身も認めているが、調査対象のサンプル数が少ない。調査内容はかなり多岐に渡っているのでこれは惜しいな。 あと、全てのストーリーの根幹となる「上流」「中流」「下流」への類型化が、当人の主観のみに基づきなされているため、カテゴリーが若干ぼやける。「あなたの生活水準はどれにあてはまると思いますか」というアンケートへの回答に基づく類型化なので、「年収700万以上でも下流」、「貯蓄額150万未満でも上流」みたいな人も現れる。 例えば酒井さんが愛情を込めて「負け犬」と名付けた、「30代、独身、子なし(&高収入)」な人は、このアンケートにどう答えるだろう。ダンスに情熱を燃やすのは確か「負け犬」の特徴でもあったな。でもこのアンケートで「下流」とは答えないよなたぶん。。 あと、締めの「下流化社会を防ぐための」提言に若干荒唐無稽なのが入ってるのも残念。「低所得者層は入試合格点数を下げる」とか「東大学費無料化」とか。 とまあ、読者に突っ込ませずに置かない本ですが、わたしゃとにかくデータの豊富さに惚れました。売れてるのもわかります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年02月14日 06時24分07秒
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