わたしは下戸である。英語で下戸のことを、tea-totallerというそうだ。だからではないが、喫茶店は好きで、よく通ったものである。ところが、昨今の風潮で、わたしが暮らしているような地方都市では喫茶店が流行らず、続々とお気に入りの喫茶店が閉店し、居酒屋や携帯ショップはなはだしきはサラ金の事務所に変わってしまっている。(サラ金が悪いというわけではなく、時代の変貌の象徴とでもいった意味である。)喫茶店が人口比では日本一多いといわれた旧静岡市でさえ、今は昔の感がある。
さて、京都に行ってうれしいことの一つは、お気に入りの喫茶店に行くことである。とりわけうちの亭主の好みで、堺町三条下ルのイノダコーヒー本店はよく行く。京都に行ったら、ほとんどここに寄ってしまう、場合によると、亭主の強要でイノダに行く為に京都に行くという本末転倒な事態さえ生ずる。この本店は何年か前に火事を出し、主要部分を新しく建替えているが、レトロな雰囲気の別棟部分のみ昔の姿を留めている。新しく建替えられた部分は、だだっぴろいワンルームで(もっとも、これは火事になる前も同じで、2階席がなかっただけだけれど)、これはこれでちょっとスノビッシュだけれど、気分によってはここで備え付けの新聞を読んで時をすごすのも一興という気になるが、何といってもお気に入りは、サンルーム風の別棟である。レトロ調の座席の椅子には、白いリネンのカヴァーがかかっていて、ちょっとしたエエトコの応接間に招き入れられた心地がする。ここに入れる裏ワザをひとつ御紹介する。実は、この部屋は禁煙席なのだ。お店に入っていくと、ウェイターさんが「禁煙席ですか、喫煙席ですか?」と聞いてくる。ここで、「禁煙席を」と頼むとこの部屋に案内される確率が高くなるのである。もっとも、混んでいれば、喫煙・禁煙おかまいなしになるから、観光シーズンには使えないワザかもしれない。
その他、この本店のいいところは、ほかの支店は、開店時刻が遅いのだが、ここは朝7時から開店している。モーニングサービスに当たる「京の朝食」¥1,000は、パンとサラダ、スクランブルエッグにコーヒーと小さいコップのジュースがついてくる逸品で、ホテルのマズいヴァイキングより安くて美味しい。インターネットで素泊まりの部屋を予約し、イノダで朝食というのも、わたしのおススメである。
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