音楽といって、これという主張や、大方のクラシックファンのようなこだわりなど全くないわたしであるが、音楽を語るうえで、この方は絶対はずせない。赤盤復刻シリーズで聴いたショパンの鮮やかさに受けた衝撃は、いまも心に残っている。それまで、夭折のピアニストディーヌ・リパッティの14のワルツが最高と思っていたが、それを上回るすばらしいショパンであった。
そのときはただただ感激して、それで終わってしまったのであるが、後日縁あって、フランス人ピアニスト、エリック・ハイドシェックを知り、彼のお師匠さんがコルトーであることを知る。しかも、コルトーの演奏を聴く前は、わたしにとって最高のショパンを演奏していたリパッティも、コルトーのお弟子さんであるという。
リパッティは繊細・緻密、ハイドシェックは豪放・奔放と、ずいぶんと個性が違い、師匠の指導は、どのようなものであったのか、不思議な思いを禁じえないが、あれほどに奔放にベートーヴェンを弾くハイドシェックが、アンコールで弾く「亜麻色の髪の乙女」のしとやかさを聴くと、言葉でうまく言い表せないのだが、なんとなく納得してしまう。