ハイドシェックの宇和島コンサートと、そのCDのベストセリングは、まさに「事実は小説よりも奇なり」を地でいった奇跡であるといえよう。宇和島という地方都市で、文化会館の自主事業として、世界的なピアニストの復活を懸けたコンサートを行い、また自らのプロモーションによる私家版ともいうべきライヴ録音を行い、宇野功芳氏というビッグネームの後押しがあったとしても、全国的な成功を収めた宇神氏の試みは、まさに奇跡が起こったとしかいいようがない。また、残された宇和島1から4というCDを聴くにつけ、わたしのように現場に存在しえなかった人間にさえ、その演奏の質の高さで感動を与えているのだ。
ハイドシェック氏は、プロモーション元の企画でもあるのだろうが、演奏終了後には、気さくにサイン会を行い、訪れたファン一人一人と丁寧な会話を交わしたり、これはわたしの面前で起こったことだが、ピアノを習っているという少女と会話を交わした折、曲(たぶん、その少女が練習している曲なのではないか)の一部をいきなり歌いあげたりする、といった非常に親しみやすい方である。しかし、ひとたびピアノに向かえば、そこには鬼神と見まがうばかりの演奏が存在するのである。
この天賦の才と、宇神氏の情熱が宇和島での奇跡を生んだのであろう。
1997年以降、宇神氏の執筆活動がないのは寂しいかぎりである。