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カテゴリ:音楽
それは、一本の電話から始まったそうである。 来日を控えたエリック・ハイドシェックから、高知パレスホテルのオーナーの吉村氏に、電話が入った。「来日のスケジュールをこなしたら、高知にヴァカンスに行くよ!その際、ピアノを弾いてあげるから、親しい人たちもご一緒にどうぞ。」 吉村氏と奥様は、自分たちだけでマエストロの演奏を聴ける機会を独占するなんて、そんな贅沢でもったいないことはできない。それなら、同ホテルが催している月曜会の中に取り込んでしまい、みなさんにこの機会を味わっていただこう。 そんな風に、3月7日のハイドシェックの夕べが決定したというわけである。 マエストロは、前日の大阪公演の疲れもみせず、上機嫌、愛用の黒い三角ストールを羽織って、待機場所の舞台横の衝立の影に脱ぎ捨て、黒いシャツとスカーフという、粋な格好で登場する。なぜ、そんなことをわたしが知ったかといえば、会場左隅の一番前の席がひょっこり空いて、そこへ移動したところ、ハイドシェックの待機場所横のレストランのドアが鏡になっていたため、すっかり見えてしまったのだ。 とにかく巨匠、上機嫌で登場。吉村氏の紹介も待たず、「こんばんわ。今日は『みどり』に合わせて、緑のスカーフです。京都のマロン・ホールでは、茶色だったけど、きょうは緑です。」と、英語で挨拶。あわてて、吉村氏が解説する。 「『みどり』とは、うちの家内の名前に「翠」という字が入っていて、それが「緑」を表す漢字であるとハイドシェックさんに説明したら、そのことを覚えていてくださって、今のご挨拶になりました。マロン・ホールとは、京都で親しくしている方のホールで、「マロン」は栗色のいみがあるので、京都で演奏した時は、茶色のスカーフを合わせた、と言っているんです。」と、説明がある。 そんな砕けた雰囲気で、演奏が始まった。
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