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カテゴリ:読書
400万部を売り上げる「居眠り磐音」シリーズほか、ベストセリングを続ける幾多のシリーズを書き下ろしで発表し続ける佐伯泰英氏であるが、最初から流行の波に乗ったわけではなかった。 氏は、日大藝術学部を卒業後、そのキャリアを闘牛カメラマンとしてスタートし、スペインに滞在した。スペインでは、地域の闘牛コミュニティであるペニャに入ることを許されるくらい周囲に溶け込み、帰国後はその経験を生かしていくつかの「スペインもの」小説をものしている。 わたしが一番好きなのは「ピカソ青の時代の殺人」であるが、最もスペイン的な色彩の濃いのは、「ユダの季節」「ユダの季節パート2:青き幻影のテロル」(復刊に際して、「テロルの季節」と改題)であろう。氏が、そのライフワークとして選んだ闘牛とスペインという題材が渾然一体となっている。作品としての完成度や残酷な描写が多い点から、あまり成功した作品ではないが、氏以外の誰にも描けないスペインを描いている異色作である。 この中に、フランスのアルザス地方の都市ミュールーズにある「国立自動車博物館」が、小説の重要な舞台として登場する。 この博物館は、もともとは織物工場であったものが、経営者のシュランプ兄弟が、高級車ブガッティの収集に凝り、経営を顧みなくなって、会社が存亡の危機に瀕し、労働争議が起こる中、突然経営者側からの工場のロックアウトが行われる。会社の存続を求めて工場に押し寄せた労働者の眼前に出現したのは、おびただしい数のブガッティのコレクションが陳列された博物館と化した工場内部であった。 以後、この工場はブガッティのコレクションの陳列場となり、シュランプ兄弟の手を離れ、国立の自動車博物館となって、現在に到るのであるが、ここに陳列されているブガッティは、すべて併設されている修理部門によって、現在でも動くことが保証されているのだという。 http://www.franceinformation.or.jp/alsace/mulhouse/mulhouse.html http://www.collection-schlumpf.com/schlumpf/ 小説では、ここに展示されている車の中でも最高級のブガッティ・ロワイヤルが、重要な役割を果たすために盗まれてしまうのだが、本物のブガッティ・ロワイヤルは、今も健在で、このコレクションを飾っている。 この奇想天外な来歴に惹かれて、2001年7月に、主人とフランス旅行したとき、迷わず、第一目的地をミュールーズに設定してしまった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.04.02 22:35:30
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