クリスマスの思い出②
クリスマスの思い出で、「ほとんどプレゼントをもらったことが無い」と書いたが、記憶の中で2回だけ覚えていることがある。お父さんが記憶している非常に貴重な「サンタクロースからのプレゼント」だ。お父さんだって「良い子」だったことがあるのだ。 一つ目は、朝起きるとそこには「待望のプレゼント」が置いてあった。ラッピングされた上等なものではないが、明らかに兄弟の枕元にも同じものが置いてある。テンションは一気にMAXまで上がる。ついにこの時が来たと。 その時のプレゼントは今でもはっきり覚えている。クリスマスの景色が書いてある板チョコだ。100円の明治のチョコレート2枚分ぐらいの大きさだ。当時のお父さんにとって板チョコは、お父さんのおじいちゃんがごく稀にくれるもので、兄弟3人で分けて食べるものだった。 希望したおもちゃではないが、歓喜の嵐である。とにかくサンタが来たことがうれしかった。ようやくサンタがお父さんのところへやってきた。これでお父さんのことをサンタさんが認識したと思った。来年からもきっとプレゼントがもらえる。 ちなみにこのチョコレートにも後日談がある。恒例の12月30日にやってきた従弟たちに、お父さんのお母さん(お前たちのおばあちゃん)が全く同じチョコレートをあげていた。サンタクロースから別のプレゼントをすでにもらっている従弟たちにチョコレートは配られた。お父さんたち兄弟には、「お前たちはサンタさんから同じものをもらったのだから」と追加の配給は無かった。 今になれば他愛のないことだが、当時は本当にがっかりした。それが単純に「従弟たちだけずるい」と思ったのか、「自分のサンタさんからのプレゼントがしょぼい」と思ったのか?今となっては思い出せない。 もう一つは、そろそろサンタクロースのシステムを理解し始めたころのプレゼント。クリスマスの前にある事件があった。お父さんのお父さん(お前たちのおじいちゃん)は、当時単身赴任で家にはほとんどいなかった。年末年始やお盆には帰ってきていたが、それ以外は2か月に1回ぐらいしか帰ってこなかった。そしてお前たちのやさしいおじいちゃんは、家に帰ってくると毎回スーパー「K」でお菓子を買ってくれた。これはその時の出来事。 今でもクリスマスの時期にはスーパーで売っているが、紙でできた赤い靴に細かいお菓子がいっぱい詰まっているモノだ。当時お父さんのあこがれだった。これまで毎年ねだっては却下され続けてきたが、この時も一応ねだってみた。 これまでは「ダメ」の一言で終わっていたので、今回もダメならいいと思っていた。しかし、お前たちのおじいちゃんはなぜか激怒した。何を言われたかは今となってはあまり覚えていない。ただとにかくひどい怒られ方をした。お父さんはこの時心に誓った。こんなに怒られるのだから今後はこの赤い靴のお菓子を手にすることはないだろうと。 そしていつもの25日の朝、お父さんは枕元で「赤い靴のお菓子」を見つけた。うれしかった。手にすることをあきらめたものを手に入れることができたのだから。しかしその後すぐにお父さんを恐怖の感情が襲った。 「あれだけ買うことを怒られたお菓子をサンタさんが知らずにプレゼントしてくれた。まずい!親に見つかったらまた怒られる。そして捨てられてしまうだろう。」と。お父さんはどうしていいかわからずただただこれから起きてくる両親がどんな反応をするのかを怯えて待っていた。 ところが予想外のことが起きた。お前たちのおじいちゃんは、スーパーではあれほど激怒したお菓子をサンタさんがプレゼントしてくれたことを喜んでくれたのだ。お父さんは何が起きているのかまるで分らなかった。サンタクロースのシステムを理解し始めていたとはいえ、まだ確信を持っていたわけではない。あれだけ怒られたお菓子を両親が選ぶわけがない。これはサンタクロースのミスだ。サンタは別にいたんだと思っただけに、両親の、特にお前たちのおじいちゃんの豹変ぶりは恐怖ですらあった。 もう少し成長してからお父さんは何が起こったかを理解した。あの激怒は不器用なお前たちのおじいちゃんが、とっさに何とかしようとして思わず「激怒」という最悪の選択肢を選んでしまったということに。 お父さんはあの時誓ったことを今でも守っている。サンタさんとはきちんと打合せをしておかなければならず、お前たちをクリスマス前に不用意にショッピングに連れて行かないようにするということを。