思い込みの影響
人間の想像力というのはすごいモノである。想像力と言ってもいろいろあるが、今回は「思い込み」に関することについて書いてみようと思う。 お父さんはタバコを吸うのだが、息子が世間一般の常識である「タバコは体に悪い」「世の中の悪」というのを当然のモノとして受け入れた結果、タバコのニオイへの拒否反応が年々ひどくなってきている。 タバコのニオイどころか、タバコの煙を見ただけで気持ちが悪くなるようだ。こうなると完全に弊害の方が多い。タバコを吸う心配がないと安心していたが、行き過ぎである。 もちろん生まれた時からそうだったわけでは無い。テレビなのか友人との会話からなのか「タバコ=最低最悪のモノ」という認識が強まり、それに触れるどころか見るだけで体調にまで影響するようになってしまった。 通常の紙タバコのニオイが嫌だというレベルではない。電子タバコのニオイもダメである。フルーツのような甘い香りしかしない電子タバコでも、タバコと認識した瞬間から気持ちが悪くなるようだ。ここまでくると一種の精神障害と言ってもよいのではないかと思う。 10年以上前だが、「抗菌グッズ」というのが日本で流行ったことがある。その当時は、ドアノブを触りたくないとか、公衆トイレや共同トイレを使えないとかいう人がたくさんいた。自宅以外のすべてのモノに触りたくないとか、とにかく手を洗いまくるとか、聞いていて頭がおかしいのではないかと思う人が、世の中に存在したのだ。 世の中には抗菌ペンとか抗菌箸とか抗菌シャツとかとにかく抗菌と名のついたものがあふれかえった。この時代に「菌」が気になっていた人は、まさに「菌は悪」という思い込みが異常に高くなってしまった人達だろう。 ある程度常識がある人であれば、「菌」というものから逃れる方法などないということを理解していると思うのだが、「異常な潔癖症」の人たちは自分の体の内にも外にも山ほど菌がついているということを認識できない人種なのだと思う。 手を洗おうと、アルコール殺菌をしようと「菌」をゼロにすることなどできない。ただ本人が納得するかどうかの話だけである。菌の有無ではなく、殺菌(アルコールで拭くなど)をしたかどうかで精神状態が変わるだけであり、極めて非科学的である。 ただし、この手の思い込みは馬鹿にできない。気分を悪くしたり、恐怖症になったりと体調や精神に異常をきたすからである。息子に「思い込みは危険だからやめなさい」と言っても理解ができないようだ。実際に気分が悪くなるのだから「思い込み」ではなく「体質」だと信じて疑わない。 ちなみに「思い込み」が肉体に影響を与えることは、誰にでもあることである。例えば、東南アジアなど日本より衛生観念が低い国に旅行した人がよく経験するのだが、美味しい食事を楽しんだ後に、厨房の汚さや食器をどろどろのため水で洗っている様子を目撃してしまい、一気に気持ち悪くなるということはよくあることである。精神が弱い人だとそのまま嘔吐してしまう。厨房など見なければ、「美味しかった」で終わっていたのに、見てしまったために起こる悲劇である。「汚いモノを食べてしまった」という思い込みが嘔吐にまでいってしまうのである。 お父さんも飼い犬のフンのニオイを嗅ぐと「オエッ」なる。だがこれもおそらく「フンのにおい=臭い」という思い込みからだろうと思っている。人間よりも嗅覚が何万倍も鋭いと言われる犬は、自分のフンに限らず、散歩に行けば他の犬のフンのニオイも普通にかいでいる。犬にとってみれば、「フンのにおい」であるだけで、「臭い」「汚い」という思い込みが一切ないからだと思う。 お父さんは子供が小さい頃、おしっこをしたおむつは普通に交換していたが、うんこをしたときのおむつ替えは本当に苦手だった。お母さんに文句を言われながらも、ほとんどお母さんにやってもらっていた。お父さんは「オエッ」となるのが止まらなかったのだが、お母さんはそうはならなかった。これが大人のモノならお母さんも「オエッ」となったとは思う。自分の子供のモノだから「汚い」とか「臭い」という意識がなかったのだろう。 思い込みが強い人は、ある意味精神的に弱い人だと思う。まず自分で自覚できないと治ることはないだろうが、自分の家族にそういう人がいると、非常に心配になる。