進学塾フィ→ルド☆アトラクションズ

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【中学受験指導体験記…Ｍ君の場合】

Ｍ君の成績が下がり始めたのは小６の初めでした。

算数では比や速さの応用単元が目白押しになり、国語の知識も１つの単元の中に小5で一度出てきた単元が3つも4つも組み合わさって応用単元として出てきます。
ですからＭ君に限らずこの時期は一瞬つまづいて、スランプになる子が非常に多い時期なのです。

しかし、Ｍ君のスランプは根が深く、成績は下がる一方で、小5の時は四谷偏差で60近くあった偏差値が、ゴールデンウイークに入る頃には45前後になっていました。
Ｍ君の顔色が優れなくなったのは言うまでもありません。

原因としては、小6になり、生徒会役員、学級委員の委員長、とにかく学校でいろいろな仕事を任されるようになったうえに、小6の先生が宿題をたんまり出す。
学級新聞の作成やら調査やら、かなり時間がかかる宿題をたくさん出すので、他の受験生の保護者からもクレームが出るほどでした。
そして、そうなるとさらにこういう先生っていうのはやたら意地になる。
どこにしわ寄せが来るかというと、「良い子で扱いやすいと評判の」Ｍ君でした。

小6になってから、私は週休の曜日を使って、記述の補講を毎週行いました。
わりと記述が得意なＭ君は、基本的な記述問題は難なくクリアしていきました。
ただ、それでは集団個別補習（みんなで一緒にやるが、1人1人別課題で添削していく補習）の意味がない。
そこで、Ｍ君にはよく麻布の古い問題をやらせました。
持ってきた答案を添削して小さなミスにもケチをつけ、突っ返す。
その繰り返しで何時間も過ぎていく。
毎回1人は泣き出す「泣くまで補習」です。
そして毎回、泣かせる相手を決めて、課題やケチのつけ方をコントロールします。
泣きながらがんばって正解を完成させる姿を、毎週別の主人公を立てて他の子に見せつけるんです。

Ｍ君がターゲットの週は、やっぱり麻布の問題。
クリスマスキャロルの文章で、お父さんが新しいお母さんらしき女性を連れて来る話。
「その時の主人公の少年の気持ちを答えろ。」
ハッキリ言ってこれは普通の家庭に育った小学生には難しい。
予定通りＭ君は悔し泣き。特に成績が下がっていたＭ君の表情は、一変しました。
ちょっといじめすぎたのか、成績が上がらないストレスは思ったよりも大きかったのか、いつもはどんなことがあっても気弱な顔を見せないＭ君が、嗚咽するように泣き出しました。

非常に罪の意識にさいなまれた私は、もらい泣きしそうになる顔をぐっと我慢し、心を鬼にして、「あきらめたらダメだ!」と励ましつつ、徐々にヒントをあげて(ちょっとヒントを出すスピードも早めて)、ついに正解が完成しました。
物語の主人公の少年の、『心の成長』を見事に説明しきった立派な答えです。

Ｍ君の嬉しそうな顔。
「晴れ晴れとした笑顔」というのはまさにこんな顔を言うんだな、と思いました。
この補習は大成功で、全員が受験勉強という難関をよじ登って記述という絶壁を乗り越えた主人公になりました。
1人1人の「頑張ればできる！」という気持ちと、クラスの連帯感を養うことができました。

しかし、その後、数週間もしないうちにＭ君の笑顔は完全に消えました。

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