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カテゴリ:『傭兵たちの挽歌』
“作家・大藪春彦氏「エクスタミネーター」を語る” 非常に迫力ある映画だ。私はたまに試写室で映画を見ると、用意された灰皿が気になってすぐタバコが吸いたくなったりする。しかし、この映画はそんな気持ちをまるで起こさせない。まさに息つくヒマもない面白さだった。 まずはベトナム戦争がアメリカに残した傷あとの深さをあらためて感じさせられた。サド、マゾ、ホモといったところまでも含めアメリカの病状が実によく出ている。 最初のベトナム前線のシーンは「地獄の黙示録」の後半に出てくる兵士たちがヘロインで薬づけになりながら戦っている夜戦シーンを思わせた。あちらは莫大な制作費と日数を投じて撮影したにちがいないが、この三十歳のプロデューサーと二十九歳の監督による映画は、当然もっと経済的にきりつめた条件下にあったにちがいないが、そうしたマイナス面を感じさせないで、〝地獄の戦場〟を描いている。 アメリカ兵がベトナム側に捕って、拷問を受けるシーンで、一人の米兵の首をチョン切る。まず、この冒頭のショッキングな場面で、観客を圧倒する。このあと一転して、ニューヨークの夜景を俯瞰(ふかん)する。 ここで面白かったのは、ソニーの大きなネオンサインがずい分目立つと思ったら、スポンサーとして加わっているのだ。ニコン、釣り具関係のダイワといった名もバック・タイトルに並び、スポンサーが実に多いのも、若いスタッフによる独立プロの作品らしいところだ。チェイス・シーンではスズキのオートバイも活躍している。 ベトナム戦争のシーンはスタントマンにけが人も出たそうだが、「空中を飛ぶオートバイの役」とか一人々々のスタントの役割まで入れたくわしい紹介をしている。 さて、主人公は陸軍レインジャー部隊の元兵士、ジョン・イーストランド。捕虜になり、処刑寸前のところを黒人兵のマイケル・ジェファーソンの決死の抵抗でともに危地を脱して復員する。彼らはニューヨークでささやかに暮らしている。 中西部では人心もそれほど荒廃していないようだが、大都会はベトナム帰りにとって決して温かくはない。 第二次大戦ごろまでの復員兵は英雄だったが、ベトナム帰りというのはむしろ差別された状況に置かれているということをさりげなく表現している。ジョンとマイケルの仕事は食肉や清涼飲料水などの倉庫。住む場所も下町のスラム。 ジョンが街のチンピラたちによる倉庫泥棒の現場を押え、逆にナイフを突きつけられたとき、再び救出するのがマイケル。チンピラたちは黒人のマイケルだけに復しゅう、植物人間にしてしまう。貧しくとも平穏な暮らしをしていたマイケルの一家は不幸のドン底にたたき込まれ、ジョンの怒りは爆発する。銃を取り出したとき彼の胸中に去来するのはベトナムの戦場。 「野獣死すべし」以下、私の小説に出てくる伊達邦彦とこの映画の主人公ジョンには連想させる部分があり、映画全体の世界も私が好んで書いてきたものと類似していると思う。 友人のための復しゅうという点では「処刑の掟」(*)、時代的には「傭兵たちの挽歌」とも共通するものがある。主人公のストイックな感じが実によかった。 ジョンの復しゅう、処刑の手段で食肉会社のボスをミンチにしてしまうシーンは、アイデアが独創的で残酷さを超える感じがあり、驚きとともになるほどこういう殺人もありうるのかと特に印象に残った。 巻頭のベトナム兵による首きりシーンとこの挽肉シーンはまことにショッキングだが、全編を貫いているのは、決して奇をテラった残酷、あるいは暴力ではなくて、男の友情と悪はたとえ小さな悪も許さないという、乾いたハードボイルドな心情が全体をひきしめており、リズミカルなテンポで展開していて最近流行している一部の恐怖映画のようなあと味の悪さも残らない。 処刑人ジョンを追うのはニューヨーク警察の刑事とCIA。この刑事が恋人に「オレはベトナム帰りだけど」と愛の告白シーンでいうのも、すでに述べたようにベトナム戦争を経験した男たちの現在の地位を象徴して印象的なセリフだ。 ラストでジョンとこの刑事が出会ってから、二重のドンデン返しがある。実にうまくできた映画で、ドンデン返しのナゾ解きのヒントとして、プロローグのベトナム戦場のシーンでジョンら米兵士が身につけている白いチョッキは防弾チョッキだという点だけを指摘しておきたい。 『エクスタミネーター』ジョイパシフィック株式会社 編集/発行 松竹株式会社事業部 *補註「処刑の掟」はワンマン・アーミー系の物語であり 該当すると思われる作品は「男(プロ)の掟」「非情の掟」である。 The Internet Movie Firearms Database 'Exterminator, The' http://www.imfdb.org/wiki/Exterminator,_The お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022年01月01日 20時22分59秒
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