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テーマ:日本的なるもの(437)
カテゴリ:陽明学
一一二の奥に入る 旧友問う。予〔わ〕が母方に微小の親類多く侍〔はべ〕り。 うとうとしければ恨み、ねんごろにすることは、余多〔あまた〕の者なれば成りがたく侍り。 予が宗領(長男)によめをむかえれば、親類すくなき者をえらぶべしと思い侍り。 云う。是〔こ〕れ心を立つるの過ち也。 むつかしきと思い、いとう(厭う)心を以てむかうる故に、苦労なり。 むかし、大舜の君、鶏〔にわとり〕鳴きておきてつとめて善をなし給いしは、何ぞや。 人倫の交わりに道ある也。 貴老、微小の親類多きは、善をする事の多き也。 悦ぶべく共〔とも〕うれう(憂う)べからず。 若〔も〕し貴老微小にて親類富貴ならば、貴老のおとづれをいとわん事、 貴老の、微小のゆかりをいとえるごとくなるべし。 しからば、遠慮してひかえんより外〔ほか〕の事あらじ。 何を以てか善をなし給うこと広からん。 幸いに親類微小にて貴老のおとづれを喜ぶ者なれば、 貴老是れをしたしみて善をする事楽しみ給え。 貴老、富貴の人にあらずといえ共〔ども〕、又貧賤ならず。 志〔こころざし〕次第にて、ゆかりの人々の貴老の志を悦ぶ程の事はなるべき事也。 衣類・米麦・菓子・肴〔さかな/コウ〕等、もしくは金銀も、 少しづつおりにふれ有るにまかせてかわるがわるあたえ(与え)、 物なき時は見廻使〔みまづかい〕、言伝〔ことづて〕の音信〔いんしん〕も可〔か〕也。 己〔おのれ〕を尽くして後あきたらずしてうらむる者あらば、彼が非〔ひ〕也。 とがむべからず。 人〔ひと〕皆〔みな〕悪名〔あくみょう〕をにくみて 令名〔れいめい〕(※名声・令聞)を好めり。 小善をつみて(積みて)つもらざれば令名あらわれず。 小人〔しょうじん〕は、人の目に立つべき大善ならばせんと思いて、小善をば目にもかけず。 君子は、日々になすべき小善を一つもすてず、大善も応ずればこれを行〔おこな〕う。 求めてなすにあらず。 夫〔そ〕れ大善はまれにして小善は日々に多し。 大善は名に近く小善は徳に近し。 大善は人あらそいて(争いて)なさんとす、名を好むが故〔ゆえ〕也。 真〔まこと〕の大善は徳より大なるはなし。徳は善の淵源〔えんげん〕也。 徳ある時は無心にして善かぎりなし。 貴老、小親類の多きによりて懇情〔こんじょう〕の善を行い、 徳をつみ給わんは、幸いに非〔あら〕ずや。 求めずして令名きこゆべし、善をするの媒〔なかだち〕と思い給わばいとう心生ずべからず。 かえりて其のつとめ、心の楽しみとなるべし。 其の上、人の悦ぶ心をあつめれば和気家にみつ(満つ/充つ)べし。 日々に無声〔ぶせい〕の楽〔ガク〕をきくならん。 人心服従する時は、号令行われ礼儀立つもの也。 和して且〔か〕つ礼あらば、子孫必ず多福を受くべし。 易〔エキ〕に云う、積善の家には必ず余慶〔よけい〕有り(易云、積善之家必有余慶)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023年01月20日 22時00分13秒
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