カウンセリングを受けるときの予備知識
次にカウンセラーの見分け方を矢幡洋さんの本から見てみましょう。腕のいい精神科医と腕の悪い精神科医の間では雲泥の差がある。カウンセラーの場合は「天地の差」があると言われています。ちなみに矢幡さんは臨床心理士です。カウンセリングを受けようと思ったら、どんなカウンセラーを選ぶかはとても重要になります。悪いカウンセラーを選んでしまうと、お金と時間が無駄になってしまいます。矢幡さんはよいカウンセラーを選ぶコツについて次のように説明されています。カウンセリングを開始して10分か15分か話をしてみて、その間に「自分がどのような問題を抱えているのか」がひとりであれこれ考えている時よりも明確になってきたというような実感を感じられるかどうかです。このように、話をしているうちにだんだんと問題がきちんと整理されてくるのであれば、カウンセリングについて基礎的な知識を持ったカウンセラーだということができるでしょう。反対にあなたが自分の問題を説明してもカウンセラーの呑み込みが悪かったり、どこか勘違いして受け取っているように思われるのであれば、カウンセラーにとって必須の「他人の話を傾聴する」ということができていないのでしょう。また、確実な証拠がないことを断言的にいうカウンセラーは、まず間違いなく悪いカウンセラーだと思って差し支えないと思います。矢幡さんはカウンセリングにも副作用があると言われます。たとえばこんな人がいました。満員電車に乗っていると急に呼吸が苦しくなって困っている女性がいました。いわゆるパニック障害です。この女性がその悩みを解決しようとしてどこかのカウンセリングルームに行きました。その時あなたのパニック発作の原因は幼児期の母子関係のトラウマにあると言われました。その方はカウンセリングを受けた後で、「満員電車に乗れない」という問題に加えて、「幼児期のトラウマを解決しなければならない」という別の問題が新たに発生したのです。これは今まで荷物が一つだけだったものが、もう一つ余計な荷物が増えたようなものです。この方はトラウマを解決しない限りパニック障害は治らないと思いこんでしまいいろんな治療法を受けて回るようになったのです。悪いカウンセラーは「あなたが電車の中でパニックになるのは、幼児期のトラウマが原因です」などと自分の枠組みの中で人を決めつけようとします。相手の話を聞くよりも「すぐに空しい気持ちに襲われるでしょう」「ときどきイライラに襲われるでしょう」などという言い当てをすぐに仕掛けてきます。また小難しい専門用語を連発します。「マニマ」「転移」「スプリッティング」などです。長いこと経っても効果があらわれないことについてクライアントがクレームをつけると、「そのようにいうこと自体がボーダーラインの症状なのだ」と正当なクレームを無効化したり、また「あなたが、私の言うとおり毎日、行動記録をつけないから、効果が現れないのだ」などと、クライアントのせいにして、逆に非難してくる。本来カウンセラーは、サービスの提供者であり、その技術が料金に見合うか否かのみで善し悪しを判定される存在だと割り切るべきだと思います。さて、カウンセリングの問い合わせをしてくる人の中には、「ただ話をするだけなのに、本当に効き目があるのですか」というような質問をする人がいる。これについては、神経症は「言葉」の存在によって、形成された部分が大きいのです。逆に言うと、言葉によって、それを解きほぐすことが可能なのです。大抵、心の問題で悩んでいる人は、頭の中で自問自答を繰り返すうちに自分で気がつかないながら堂々巡りに陥って、蟻地獄のような場所から脱出できなくなってしまっていることが多いのです。カウンセラーとの対話によって、気がつかなかった問題の見方に気づかされ、解決の糸口が見つかる発見的な効果があるのです。言葉というのはそれだけの力があるのです。解決の糸口を探し出すことを促進するような会話のテクニックというものが存在するのであり、カウンセラーというのは、治療的な会話のトレーニングを受けた「言葉の専門家」なのです。以上を参考にして間違いないセラピストを探しましょう。「立ち直るための心理療法」(矢幡洋 ちくま新書 97ページから108ページ要約して引用)